ウィシュマさんビデオ詳報【下】妹のポールニマさん「日本の全国民に見てほしい」

名古屋出入国在留管理局で収容中に死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33)。亡くなる直前の監視カメラには、どんな映像が映っていたのか。編集済みのビデオを見た衆参両院の野党議員7人による報告会の詳報【下】をお送りする。

【上】の『入管が見せたもの、隠したもの』はこちら

◆「被収容者は詐病を使うというストーリーが支配」

医師でもある衆院議員の米山隆一氏(無所属)の入管職員に対する見解は、他の議員とはややニュアンスが異なっていた。

「みなさんとちょっと違うかもしれませんが、おそらく入管職員に加害の意志はなかったように見えました。意図的に何か悪いことをしようという気持ちがあったわけではないように見えた。ただ、今まで指摘されているように、明らかに体調が悪いウィシュマさんに対して職員は『平気、平気』と言い続けているんですね。全く医療の知識も介護の知識もない人が、『大丈夫』と言い続けている。しかも最後の方は明らかに(体が)ぐらぐらしてきていて、職員も不安になって入管の看護師にお伺いを立てる様子が見える。ですけど、今度は看護師が『大丈夫、大丈夫』とすごく明るい調子で話している」

「入管は(ウィシュマさんが亡くなった原因について)医療体制が不十分だったからと言ってますが、(名古屋入管の)収容人数が何人かは知りませんが、少なくとも1週間に2回、2時間ずつ医者は来ていた。私は介護施設で(担当医を)やっていたことがあるんですが、1週間に2回、2時間ずつで100人、200人をダーっと診るということは、よくあることです。入管の医療体制自体が悪いとは思えない」

では、入管の何が問題でウィシュマさんは亡くなったのか。米山氏は続ける。

「おそらく入管職員の中に一定のストーリーがあって、『収容してる人たちは詐病を使っている』というような、そういうストーリーに支配されて動いてしまっているのかな、と。あんなふうに(医療や介護に)全くの素人の職員が、2週間、いろいろなことを訴えている人をそのまま放置するというのは、通常の介護施設などではあり得ない。同じ日本の法律が適用されるはずなのに、『入管の中は別だ』『収容している外国人は日本人とは別なんだ』という思いがなければ、あんなことはできない。やはり根本から改めていくことが大事だと思っています」

◆「入管の処遇部門に問題」「長崎の大村でも同じような問題が」

衆院議員・鈴木庸介氏(立憲)も、米山氏と同様の問題点を指摘した。

「『担当さん…、担当さん…、担当さん…』と、だんだん小さくなっていくウィシュマさんの声が今も頭から離れません。なぜ、入管はこんな対応になってしまったのか。(被収容者の外国人と対応する)処遇部門というのは、ビザを出してその人が帰国するという入管の通常の流れから外れてしまったというか、切り取られてしまった部分なんです。処遇部門で勤務した職員の話を聞くと、『残業は青天井で給与面の待遇は良いけど、処遇部門にはもう行きたくない』と。こうしたメンタリティーの問題があると思います。そして米山議員が言ったように、『あなた、仮放免が欲しいから詐病なんでしょ、仮病でしょ』という考えで収容者と接しているのではないか。身体が弱まっているのが分かっているのに、詐病なんだという考えから離れられなかったのでは、と」

衆院・長崎3区の山田勝彦氏(立憲)は、大村入国管理センターがある長崎県大村市が地元である。

「ビデオを見ましたが、衝撃的でした。『担当さん、担当さん、体調が悪い、病院に行きたい、点滴打ちたい』。ウィシュマさんがそう心から訴えているのに、『ごめんなさい。私たちには権限がないの』『ボスに伝えておくから』という言葉で済まされていた。強い違和感と恐怖心すら感じる映像でした。実は数日前、地元・大村の(被収容者の)支援者の方から連絡がありました。大村の入管センターでも、ウィシュマさんのように亡くなってしまうようなことが起きるのではないか、と危惧しています。2018年7月から大村入管に収容されているネパール人の男性は、足を骨折して治療を受けたいと訴えたけれども受けさせてもらえなかった。足は壊死して今は食欲がなく、飢餓状態で命の危険にさらされているという状況です」

ウィシュマさんの葬儀の様子(社民党のHPから)

◆ウィシュマさんの妹「日本の全国民にビデオを見てほしい」

所用で報告会に出席できなかった参院議員・有田芳生氏(立憲)は、次のようなメッセージを主催者に託した。

「聞きしに勝る残忍な状況が映像では続き、名古屋入管による医療放棄、介護虐待による『緩慢な殺人』だと評価されても仕方ないでしょう。入管が人間的対応を取っていれば、ウィシュマさんの命は救われたと確信します。ビデオは2月22日からですが、その前の15日にウィシュマさんが飢餓状態にあることを示す検査結果が出ていました。22日以降の映像は食事を口に運ぶ、吐くの繰り返しです。職員も『栄養が大事だ』と何度も口にしていましたが、飢餓状態なら救急搬送して治療を受けさせるしかない。それが看護師や医師の、人間として当たり前のモラルでしょう」

「今でも印象的な場面があります。職員がベッドに横になっているウィシュマさんの姿を立ったまま、じーっと見つめているのです。その内心には何があったのでしょう。これはおかしい、大変なことになる、どうしようかと思うのが当たり前です。果たして上司にどう報告したのでしょうか。報告された上司はどう判断したのでしょうか。看守の勤務日誌に何が書かれているか、開示請求しても黒塗りの書類が出てくるだけで何も明らかになっていません」

集会の最後、ウィシュマさんの妹のポールニマさんは通訳を介してこう述べた。

「私が訴えたいのは、日本の国民のみなさんにもビデオを見せてほしいということ。見ることで、日本のみなさんも入管がどういうふうに外国人を扱っているかが分かるし、二度とこういうことが起きないように制度を変えていくことができる。姉の死因を解明するために今後も頑張っていきたい」

ウィシュマさんの妹のポールニマさん(撮影:本間誠也)

(フロントラインプレス・本間誠也)

『ウィシュマさんビデオ報告会詳報【上】入管が見せたもの、隠したもの』(フロントラインプレス)
『なぜこんな冷酷なことができるのか? ウィシュマさんの死と入管 指宿昭一弁護士語る』(フロントラインプレス)

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