古島弘三医師「1日休めば回復するわけではありません」
疲れがあれば休む。その決断は、怪我の予防になるだけではなく、野球がうまくなるための近道にもなる――。肩や肘の障害を予防するアプリ「スポメド」を監修した肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威、慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は「疲労は故障の前兆」だとした上で、小・中学生に向け「疲労をためないために休養日を設けること」は重要だと力説する。
【画像】障害のリスクがひと目で分かる!? 故障予防アプリ「スポメド」の実際の画面
怪我や障害には予防できるものがある。そのサインになるのが疲労や違和感だ。これまでに少年からプロまで約8000人の野球選手を診察してきた古島医師は、子どもたちや保護者、指導者に伝えたいことがある。
「疲労や違和感があるのに負荷のかかるトレーニングを続ければ、痛みにつながると知ってほしいんです。子どもは大人よりも疲れを感じません。特に身長がどんどん伸びる成長期には、日々の疲れが続くことは障害の前兆と捉えてもらいたい。肩や肘だけではなく、腰、股関節、膝など全てに言えます。
大事な大会前に最後の強化期間だといってハードな練習を課しているチームが多くみられます。結局そこで故障してしまったり、疲れが残ってしまったりするため、大事な大会ではパフォーマンスを上げることができずに終わってしまう選手をたくさん見てきました。今まで頑張って積み重ねてきたものがあるのに、最後のハードな練習や連戦で負荷がかかりすぎてしまい、故障して終わっていく選手たち。その原因が疲労の蓄積によるものだとは指導者も本人も気付いていないのです」
うまくなるために毎日ハードな練習をしたい気持ちは理解できる。ただ、体のサインを無視して続ければ故障が生じて逆に練習ができなくなってしまう。古島医師は「特に子どもは最悪の場合、将来手術をせざるを得なくなるほど障害になる“きっかけ”を作ってしまうかもしれません」と話す。
休みを挟む方が力がつく「超回復」、毎日行いたいストレッチ
古島医師は、一昨年からスマートフォンのアプリ「スポメド」の開発に監修として携わってきた。練習中の投球数や選手個人の疲労度などを入力すると、医学的見地から怪我のリスクを指導者や保護者と共有できる機能がある「スポメド」を監修したのも、疲労や体の状態を正確に知ってもらうためだ。
「子どもは自分から疲れたとは言わないし言えない状況が少なからずあります」とも語る古島医師。野球障害を予防するために「少なくとも週2日以上の十分な休養日」を勧めた上で、こう続けている。
「1日休めば疲労がすぐに回復するわけではありません。実は休養を十分にとった方が、うまくなります。疲れていては練習も楽しくないし、集中できないためうまくもなりません。むしろ疲れないようにどう手を抜くかを考えてしまいます。それでは時間をかけてもなかなかうまくなりませんよね」
古島医師は「休みを挟んで疲労を回復させる方が力が蓄えられます。疲労が蓄積した状態ではパフォーマンスがどんどんと落ちていきます。超回復といって、十分な休養を取ることで疲労が回復した後に行うトレーニングの方が、実は効果が引き出されます」と説明する。
また、日々の練習の疲れを蓄積させないためにもストレッチが大切だという。
「疲れがたまると筋肉の柔軟性は低下します。スポーツ選手にとって柔軟性がある方が怪我をしにくいことは誰でも知っていると思います。一方で、体が硬いままハードな練習を繰り返すと故障リスクが高まることはあまり知られておりません。
野球は走る、投げる、打つと全身を使いますので、上半身から下半身まで十分なストレッチが必要です。ストレッチをしながらしっかりと体の柔軟性を良くしていくことが怪我や障害の予防につながります」
疲れを回復させる休養とストレッチが、スポーツ障害の予防とパフォーマンスアップにつながる。(間淳 / Jun Aida)
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