「想像もできなかった世界」へ 巨人・島野愛友利が進む先にある女子野球の未来

2021年9月に東京ドームで始球式を行った神戸弘陵・島野愛友利【写真:荒川祐史】

精鋭の巨人女子チーム1期生、実戦練習は別チームで

全国で野球をプレーする少女たちに希望の光が照らされたことは、記憶に新しい。昨夏、甲子園球場で史上初の女子高校野球の決勝が行われ、年末には巨人が女子硬式野球チームの新設を発表した。その2つの話題でスポットライトに照らされたのは、神戸弘陵(兵庫)の島野愛友利投手。ジャイアンツの“一員”になるという新たな一歩が意味するものは何か。インタビューで思いを聞いた。

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伝統あるユニホームを着て、壇上に上がった島野は、巨人の女子チーム1期生として入団した4選手のうちのひとり。その姿は全国の後輩女子選手へ一筋の光を照らすものとなった。きっかけは、甲子園決勝後に用意された東京ドームの始球式だった。

「(9月14日の)始球式のときに、初めて入団のお話をいただきました。すでに卒業後の進路が決まっていたので、返事はその1か月くらい後でしました。辞退した進路の方へ事情を説明をさせていただいたのですが、すごく背中を押してくれました」

申し訳ない思いを抱きながらも、感謝の気持ちでいっぱいだった。2月から宮崎と沖縄で行われる巨人の春季キャンプに参加する予定。その後は球団施設内での練習や子どもたちに野球の魅力を伝える「ジャイアンツアカデミー」のコーチの仕事をこなす。現在は所属選手が4人と少数のため、今年は別チームにも在籍し、実戦経験を積むことが許されている。初めて故郷の関西を離れ、野球漬けの日々を送ることになる。

高いレベルと熱中できる環境を求めて、悩んだ卒業後の進路

進路選びの軸としたのは“野球に熱中できる環境”かどうかだ。今春卒業予定の神戸弘陵も、石原康司監督が抱く野球への情熱と、校舎に隣接する女子硬式野球部専用グラウンドなどの練習環境が入学の決め手だった。卒業後の進路を考える中、レベルの高さを求め、男子だけで構成されたチームへ入ろうかと悩んだ時期もあった。神戸弘陵で教職員・女子野球部コーチを務めている埼玉西武ライオンズ・レディースの川中ももさんに、NPB球団やクラブチームで働きながら現役選手を続ける道について何度も相談した。

そんな島野が巨人入りを決心したのは、これまで感じていた女子野球選手の進路の難しさも理由のひとつのようだ。

女子硬式野球部を有する学校は年々増加中だが、2022年1月現在で高校約40校、大学約10校と選択肢が少ない。女子プロ野球は無期限休止を発表し、クラブチームや社会人チームも数が少なく、運営母体は男子ほど大手企業が名を連ねているわけではない。女子ソフトボールと比較すると圧倒的に進路の幅が狭いのが現状だ。

「夢」を持てなかった実体験、全国の後輩女子選手へ想い

「小、中学生の頃に将来の進路を見据えたとき、競技を変えようかと悩んだことがありました。今、女子選手はみんな進路に悩んでいると思います。女子選手の目印になるようなチーム(巨人)からお話をいただけて、自分が一本の道になるように進まないと、もっと迷う子が増えてしまうと思いました」

女子野球史上初めて甲子園を制して以降、島野に憧れる女子がさらに増えた。中学時代に所属していた大淀ボーイズ(大阪)にも目を輝かせている後輩が複数人、在籍している。巨人へ入団することにより、全国の女子選手へ一筋の光を照らそうとしているのだ。

「(NPB球団のユニホームに袖を通すことは)昔は想像できなかったし、想像できない女子野球を続けようとも思っていなかったですけど、今やっている幼い女子選手や、今から野球を始める女の子たちにとっては、段々と“夢”になってきていると思います。夢が持てる女子野球になっていけばいいなと思います」

(後編に続く)(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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