大村湾の環境保全・活性化へ 水質改善に県は音頭を 2022長崎知事選 まちの課題点検・2

漁の解禁を迎え、水揚げされるナマコ。量は少ない=2021年12月19日、大村市漁協

 昨年12月、大村湾は冬の味覚ナマコ漁のシーズンを迎えていた。解禁日、朝から次々に漁船が帰港。大村市漁協では漁業者たちが水揚げ作業を進めていた。
 同漁協の松尾貢組合長はナマコの計量を終え、ため息交じりにつぶやいた。「初日で2時間漁に出て、これくらいか」
 年末には縁起物として高値で取引されるナマコ。だが同漁協での漁獲量は明らかに減少傾向にある。2017年に約43トンだったナマコ類は、3年後の20年、約26トンまで減少した。
 今シーズンは海水温が下がらず、試験操業での水揚げも少なかった。このため解禁日が3週間遅れ、漁期が20日ほどと短かったこともあり、約3トンまで激減する「記録的な不漁」(松尾組合長)に。同市によると、市内2漁協1支部全体でも5トンに満たなかった。
 同漁協では昨年夏のシャコも不漁。ほかの魚種も合わせた漁獲量は17年の約103トンから20年は約77トン、21年(10月末現在)は約33トンにまで落ち込んだ。松尾組合長は「このままだと漁師も減るばかり。子育ての合間に漁に出ても十分取れていた40年ほど前と比べて、大村湾の環境が変わっているのは間違いない。昔のような豊かな海に戻ってほしい」と切実だ。
 ◆
 同湾は全国でも5番目に閉鎖性が高く、水質が悪化しやすいとされる。長崎県では「大村湾環境保全・活性化行動計画」を策定し、水質浄化や生物多様性の保全などに取り組んでいる。
 第3期計画(14~18年度)では、水の汚れを示す化学的酸素要求量(COD)が1リットル当たり平均2.0ミリグラムとなり、目標値(同2.0ミリグラム以下)を達成。県地域環境課は「沿岸の汚水処理人口普及率の向上や排水規制もあり、全体的に水質は改善されている」とする。
 ただ、より閉鎖性の高い湾奥部の改善は依然として課題だ。第4期計画(19~25年度)では、漁獲量が20年前の約3分の1に減少しているとして藻場の回復や海底耕うん、種苗放流などに取り組んでいる。本年度からは環境省の調査モデル海域に選定。県が生物の生息環境整備などを目的に、ガラスの粒の人工砂を海辺に敷き詰めた「ガラスの砂浜」(同市)を中心に、環境改善に向けた取り組みの効果検証も実施されている。
 流域5市5町(大村、長崎、西海、佐世保、諫早、波佐見、時津、長与、東彼杵、川棚の各市町)などでつくる「大村湾をきれいにする会」は毎年、同省などに要望書を提出しており、大村市は本年度から県への要望項目に同湾の水質改善も明記。貧酸素水塊対策や浅場の造成など、先駆的な実証試験を求めている。市環境保全課は「水質改善に向けて市単独で動くのは難しい。県が(流域5市5町の)音頭を取っていくことが必要だ」とする。
 同湾の水質改善に取り組むNPO法人長崎海洋環境研究会の山中孝友理事長は「大村湾は景観をはじめ、レジャーや教育の場としても魅力的。行政が旗振り役となって浄化への取り組みを進めることはもちろん、流れ込む河川にごみを流さないなど『みんなで守っていく』意識の醸成も大切」と話す。


© 株式会社長崎新聞社