「勝ちを目指さない」のに全国へ 岐阜アミーゴの“ブレない指導”が起こした変化

岐阜市の中学生硬式野球チーム「岐阜アミーゴヤング」【写真提供:岐阜アミーゴヤング】

強豪校への進学やプロ入りにつながる選手育成を最優先に指導

「勝ちを目指していません」。保護者にチーム方針を伝えた少年野球チームは、わずか部員11人、創立2年目で全国大会「ヤングリーグ春季大会」への出場を決めた。岐阜市の中学生硬式野球チーム「岐阜アミーゴヤング」は選手の将来を最優先し、中学の3年間は高校やプロへのステップと捉えている。創立1年目は保護者や子どもたちの理解を得られず部員が減ったこともあったが、異色のチームにはブレない信念がある。

日本ハムの新庄剛志監督は昨年11月の就任会見で「優勝なんか一切目指しません」と宣言した。それよりも前に、周囲を驚かすチーム方針を掲げていたのが「岐阜アミーゴヤング」の有山裕太監督だった。小山圭介代表は明かす。

「親御さんには『勝ちを目指していません』と伝えました。目の前のアウトを取る、目の前の試合に勝利するのではなく、高校やプロにつながる指導や育成を考えています」

もちろん、試合には緊張感を持って臨んでいる。ただ、勝利よりも長期的なビジョンを優先にしているのだ。例えば、練習試合は県外の強豪と組むことが多い。創立2年目の岐阜アミーゴヤングには中学3年生がいないため、最初は大敗が続いた。子どもたちは勝利の喜びを味わえない。だが、全国のトップレベルを知ることが日々の練習に生きる。

細心の注意を払うため、部員数11人ながらも肩や肘の故障者はいない【写真提供:岐阜アミーゴヤング】

チーム代表がトレーナー、怪我予防を徹底し肩や肘の故障者はゼロ

体のケアを大切にしているのも選手の将来を最優先にしているためで、チームの大きな特徴でもある。小山代表は元々、整骨院を開業しており、トレーナーとして米国に留学した経験もある。選手のフィジカルを鍛えながら、怪我の予防に注意を払っている。チームの代表という立場でありながら、ほぼ毎回、練習に顔を出して選手の動きを確認する。怪我につながる可能性のある変化を見逃さないためだ。

「体を気にする仕草を見せる選手には声を掛けますし、痛みがなくてもフォームが崩れてきたらノースローにした方がいいと監督やコーチに伝えます。選手も不調を感じたら言いにくるようになりました。他のチームと一番違うのは、指導者とトレーナーが情報共有して、これ以上やったら怪我をするという線引きができているところだと思います」

少年野球で問題になっている肩や肘の故障を経験した選手はいない。指導者が勝利を優先させて中心選手に無理をさせたり、子どもたちが痛みや違和感を指導者に打ち明けられなかったりすると大きな怪我を引き起こしてしまうが、岐阜アミーゴヤングは、こうしたリスクや不安を取り除いている。1年生の河田大輝内野手は「試合に出られなくなるかもと最初は思いましたが、将来のことを考えて体のことは監督や代表に伝えています」と話した。

チーム方針は今でこそ、保護者や選手に浸透している。だが、創立当初は理解を得るのが難しかった。中学2年生の1期生は14人がチームに入り、残っているのは8人。小山代表は「最初は勝てませんし、勝利よりも選手の将来を考えているという説明に納得してもらうのは時間がかかりました。昨年の夏くらいから、子どもたちの意識が急激に変わったと感じています。強豪硬式クラブチームとの試合を通じて自分に何が足りないのか、どうすればいいのか考えるようになりました」と紆余曲折を振り返る。

創立当初は大敗続き、6人がチームを去ってもブレない指導方針

苦しい時期もチームの方針は決してブレなかった。小山代表は「指導者の思いを信じていますし、何かを変えようとは思わなかったです」と語る。その結果、子どもたちは着実に力をつけていった。そして、「勝ちを目指していない」はずのチームは昨年11月の東海支部予選で準優勝し、全国への切符を手にした。

小山代表は「全国大会は通過点です。これをステップに子どもたちには、プロへ行くためにどの高校に進むのかを考えてもらいたい」と力を込める。有山監督も「6人選手が抜けても、指導方針や気持ちに変化は一切ありませんでした。自分を信じてチームに残っている子どもたちに失礼ですから。1期生の結果が出なかったら考えないといけない部分はありますが、1期生が残り1年で最高の答えを出せるように指導していきたいと思います」と先を見据えた。

将来に向けて高い目標を設定する方針は、有山監督自身が実践している。大阪桐蔭高3年時の2008年夏の甲子園で優勝し、四国アイランドリーグplusの香川でプレーした経験を持つが、指導者は現在のチームが初めて。それでも、リーグに所属する際、関係者や他のチームの監督の前で「3年で全国に行けるチームをつくります」と宣言した。

「大きなことを掲げれば、できなかった時に恥ずかしい思いをします。自分に負荷をかけるからこそ、子どもたちと真剣に向き合えます。プレッシャーは大きいほど成長できます。万が一、目標に届かなくても、保険をかけた小さな目標を達成するより上のステージにいけるはずです」。1年前倒しで全国大会出場を果たし、目標を高く設定する大切さを証明した。

全国大会は3月に岡山県倉敷市で開催される。選手たちは、その舞台をステップに将来を描いている。1年生の大岩桔平内野手は「うまくなるために大阪桐蔭に行って、プロ野球で活躍できる選手になりたいです」と話し、同じく1年生の皆川瑛翔投手も「高校はプロに一番近いと思っている大阪桐蔭を目指しています。将来はメジャーにも行きたいです」と目を輝かせる。勝ちを目指さない。その真意を選手たちは十分に理解している。(間淳 / Jun Aida)

部員11人、創立2年で全国大会へ 岐阜アミーゴヤングは一体どんな練習をしている?

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