秋山監督は中学時代、野球チームに所属しながら陸上で全国大会に出場した経歴を持つ
野球のユニホームを着た子どもたちが追っているのはサッカーボールやラグビーボール。東京・八王子市にある帝京大八王子キャンパスで活動する少年野球チーム「帝京ベースボールジュニア」の練習では、不思議な光景が広がる。掲げているのは、“マルチスポーツ”。秋山満監督は、多種多様な競技の練習を野球に取り入れることで、子どもたちの未来につながると考えている。
【動画】野球のユニホームでラグビー? 帝京ベースボールジュニアの練習風景
帝京ベースボールジュニアは日本で初めて大学が後援サポートしている少年野球チーム。大学施設を利用し、野球の指導はもちろん、サッカーやラグビーなど野球以外のスポーツを練習に取り入れている。
海外ではマルチスポーツが主流と言われているなか、日本では1つの競技に専念するケースが多い。「現在の子どもたちは野球以外の習い事も多く通っていて自分の時間も無い中、チームによっては気軽に休むことが許されない所もあるじゃないですか。他の競技をすることもなく、スポーツの楽しさを知ることができないので、指導者が子どもの可能性を狭める事に繋がるんですよね」と秋山監督は言う。
秋山監督がマルチスポーツの良さに気づいたのは中学生の時。学校の陸上部に入部したのがきっかけだった。高校で野球を続けるための強化が目的だったが、三種競技で大阪1位となり全国大会出場も経験。そこで野球以外の競技の楽しさを感じた。
「日に日に記録が伸びる陸上が好きになって、本気でオリンピックを目指そうかなと考えたこともありました」と振り返る。陸上選手として数多くのオファーがあったが、高校から再び野球に専念した。
元ロッテの里崎智也氏が会長、荻野忠寛氏が副会長を務める
大学は帝京大でプレーした後、一般企業に就職し、2011年から帝京大のコーチを3年間経験。その後、職員として大学へ戻り、出向先の公益社団法人で地域貢献を学んだ。「今後、人口減少や少子化がさらに進んでいく。大学や地域に何が必要か考え、出向先の専務に相談した時に、思い浮かんだのが少年野球チームだったんです」。
帝京大では、大山高准教授がマルチスポーツの研究に取り組んでいる。ノウハウもあり、人工芝のグラウンドなど設備も整っている。マルチスポーツを取り入れた野球チームを大学だったら作れるのではないかと考えた。
当初から全ての人が受け入れてくれるわけではなかった。「結果が出るかとか、怪我をさせたら誰が責任を取るんだとか、立ち上げに否定的な人もいました」。何度も説得し、1年半かけて2020年にチームを発足させた。
大学の後援サポートは様々なメリットがあった。「間違った指導は極力排除できますから保護者も安心ですし、次世代を担う子どもやその保護者に帝京大学を知ってもらうきっかけになってくれるといいですよね」。帝京大は、ラグビーや駅伝、空手、柔道などトップレベルの競技があり、他のスポーツを知ることができるのもメリットだ。
この考えに共感したのが、元ロッテの里崎智也氏、荻野忠寛氏だ。里崎氏は「スポーツの1つとして野球を好きであることが大事」とマルチスポーツを推奨。現在は里崎氏が会長、荻野氏が副会長を務め、野球教室などで子どもたちと交流している。創部してまだ2年足らずだが、徐々に部員も増えてきている。競技の垣根を越えて子どもたちの可能性を広げていく。(川村虎大 / Kodai Kawamura)
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