ポジションぐるぐる移動… 新庄監督が仕掛けた“異例すぎるノック”が生む緊張感

シートノック中に指示を出す日本ハム・新庄剛志監督【写真:羽鳥慶太】

野村や万波に大胆コンバートの可能性が浮上?

異例過ぎるシートノックが、グラウンドに緊張感をもたらした。日本ハムの春季キャンプは5日から第2クールに突入。午前中に「総合守備 27OUT」というメニューが組まれた。9人の野手がポジションにつき、1試合分の27個のアウトを重ねていくという実戦を想定したシートノック。さらにグラウンドの中から見つめた新庄剛志監督は、どんどん選手のポジション移動を指示していったのだ。

中堅を守っていた五十幡にアドバイスし、本塁への好返球に拍手を送ったかと思えば、次の瞬間には遊撃の守備に就くように命じた。三塁を守っていた野村を左翼に、遊撃の新人・上川畑を右翼に、2年目遊撃手の細川を中堅に。さらには身体能力に優れたブレーク候補の万波も三塁の守備につけた。秋季キャンプでは、各ポジションの動きを知るためにポジションをシャッフルしてのノックを行った。ただこの練習は、それ以上に真剣なコンバートの可能性まで考えたくなる配置だった。

新庄監督は、今季のレギュラー争いについて「横一線」と強調し続けている。それは、これまでの見方を一度横に置いて、選手の能力、適性を改めて見極めるということでもある。

昨季1軍で打率.267、7本塁打を記録した野村は、97試合で16失策しているように三塁守備が決してうまいとはいえない。それなら守備の負担が少ない左翼に回し、打撃力を伸ばしたらどんな選手になるのか。空いた三塁に万波を置いたら、守備でどのように強肩を生かしてくれるのか。全てに意味がある配置に見えてくる。

その“本気度”を感じているのは、当の選手たちだ。2年目の今川は、昨季ソフトバンク・和田からプロ初本塁打も記録した大砲候補だが「正直、焦りを感じますよ。僕が内野に行く可能性は低いと思うので、(外野で)打てて守れないと自分のポジションはどんどんなくなっていく。そんな危機感を覚えています」と口にした。力を伸ばすための“競争”の輪が、どんどん大きくなっている。皆がライバルなのだ。

ズッコケる日本ハム・新庄剛志監督【写真:羽鳥慶太】

ノック中、中堅の“定位置”では数々の新庄語録が

ノックの最中、新庄監督は現役時代の“定位置”だった中堅から選手の動きを見つめていることが多い。動きに目を光らせ、違うと思ったらすぐにアドバイスを送ることも。さらにスタンドの報道陣にも、その意図を説明してくれることがある。

例えば右翼線への打球を万波が処理。ただ二塁への送球が高めへ逸れた。「慌てると、高くなるでしょ。あれをフラフープの中で練習するの。何回もやらせないとダメだね」と、キャンプ2日目に披露した、高さ3メートル弱のところに置いたフラフープの中をくぐらせて送球する練習の意味を説明した。より低く、より強く、そして正確に。どんなプレッシャーがかかる場面でも同じようにやってみせるには、練習で体に染み込ませるしかない。

そして、コーチに対する“口撃“も。ノックを打っていた新任の稲田直人コーチがなかなか思ったような打球を飛ばせないと、膝を折って大げさにズッコケた。「ノッカーも新人なんで。明日から(2軍キャンプの)BOSS組にいるかもよ」。ただこれも、ただの冗談とは受け取れない。「本数は決まっているんだから、しっかりやってくれないとね。選手が疲れちゃうでしょ?」。練習の効率や意味を最優先するからこその言葉だ。

この練習が終わろうとする頃、新庄監督はマイクを握って、スタンドへ語り掛けた。「これぞプロというプレー、カッコいいシートノックが見られます。楽しんでいきましょう」。万波が本塁に悪送球すると「もう1回」とやり直しを命じた。

「ファンの拍手が大きくなるとね、選手に届くでしょ。選手が燃えてくるんだよ」

今季のチームスローガンは、新庄監督の鶴の一声で決まった「ファンは宝物」だ。それはファンサービスに務めましょうというだけではない。甲子園で育った新庄監督は、ファンの厳しい視線が選手を育てる肥やしになると知っている。全てが新庄監督の演出下にあったかのようなシートノックこそが、変わりつつある日本ハムの象徴だ。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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