日本+海外が生み出す化学反応 田澤純一が驚いた来日外国人選手の“変化”

昨季は台湾・味全でプレーした田澤純一【写真:本人提供】

「日本は日本で、海外は海外でいいところがある」

田澤純一がレッドソックスでメジャーデビューを飾ったのは、2009年8月7日のこと。同地区ライバル、ヤンキースとの一戦だった。0-0の延長14回に敵地マウンドに立つと、先頭の松井秀喜を中飛に仕留めるなど無失点。だが、続く15回2死一塁からアレックス・ロドリゲスにサヨナラ2ランを左中間席に運ばれ、敗戦投手となった。メジャーがどんな舞台なのか、肌身で知った。

そのおよそ8か月前。ドラフト注目株だった田澤は事前にドラフト指名を辞退し、レッドソックスと契約。これが紳士協定に反すると問題視され、後に同様のケースが生まれないようにペナルティ規定が生まれた。規定は2020年に撤廃されたが、それまでの10年余り、田澤は後進の選択肢を減らしてしまったのではないかと心を痛めた。

だが、「米国で野球がしたい」と下した決断そのものは後悔していない。勘違いされがちだが、「日本より米球界の方が上」という判断基準での決断ではなく、純粋に「米国の野球をしたい」という心の声に耳を傾けただけ。だからこそ、自分の行動の結果としてペナルティ規定が生まれたことは想定外だった。

「日本は日本でいいところがあるし、海外は海外でいいところがある。ただ、海外に行かなければ分からないこともいっぱいあると感じました」

これこそが田澤が決断を後悔しない理由だ。自分の視野が広がり、世界には様々な価値観が存在すると知る経験は何ものにも勝る。自分にとって当たり前なことが、場所が変われば当たり前とは限らない。そんな事実に気付くだけでも、選手としてはもちろん、人間としての幅が広がった気がする。

国内外で自由にプレーができる異競技に「すごい」

時代の移り変わりとともに、野球界も徐々に変化を見せている。フリーエージェント権を持たない選手がメジャーリーグに移籍する時に利用するポスティングシステムは、1998年の成立時から2度の改定を経て、今では選手が複数球団と直接交渉できるようになった。また、以前に比べると、メジャーリーグから日本球界に復帰する選手も増えている。

広くスポーツ界に目を向けると、サッカー界には海外で活躍する日本人選手が数多く存在。プレーする場として、日本と海外のチームが同じ選択肢に並ぶ環境があることを、田澤は素直に「すごい」と思う。

「サッカー界にはどうやって選手が海外に挑戦したり、日本に帰ってきたりしやすい環境が生まれたんだろうって考えることがあります」

世界中で親しまれるサッカーと、北中米やアジア圏が中心となる野球では、事情も価値観も変わってくるだろう。だからこそ、国内外問わず選手が自由にプレーする場所を選べたり、自由に発言したりできるサッカー界が新鮮に映るようだ。

「サッカーの場合、Jリーグに入る前から『いずれは海外で』と大きな声で言っている。逆に、海外からJリーグ入りした選手が『日本はここが甘い』と遠慮なく提言できる環境があるのは面白いですね」

昨季までオリックスに所属していたアダム・ジョーンズ【写真:荒川祐史】

ロッテのエチェバリアや元オリAJのNPB入りは「大きなプラス」

野球界も選手が海外でプレーしやすく、日本に戻ってきやすい環境が今以上に整えば、選手が海外で学んだスキルや知識を持ち帰り、それが日本で混ざり合い、化学変化を起こして、野球がさらに魅力あるものになる可能性は十分ある。最近、興味深い傾向が生まれてきた。日本球界にやってくる外国人選手の中にメジャーでも一目置かれる選手が増えてきたのだ。つまり、日本にいながらメジャートップレベルの技術を学べる機会が増えているというわけだ。

「すごくいいことだと思います。昨年で言えば、エチェバリア(ロッテ)が日本に来たのは本当にいいこと。あの守備はメジャーでもなかなか見られないレベルですから。僕もマーリンズでよく助けられました。打撃はそこそこかもしれませんが、あの守備を間近で見られるのは、日本人選手にとって大きなプラスになると思います。ウワッと衝撃を受けるだけでも大きな経験ですよね。スキルだけではなく、どんな練習やトレーニングをしているのか、試合までの準備はどんなメニューなのかも知ることができる。アダム・ジョーンズ(元オリックス)が来たのも驚きましたが、すごくいいなと思いました」

田澤自身、レッドソックスでは通算138勝したジョシュ・ベケット、200勝左腕ジョン・レスターらが地道にトレーニングを積み重ねる姿、マーリンズではイチロー氏が毎日続ける手を抜かない準備を目の当たりにした。

「僕もベケットやレスターがどんなトレーニングをしているのか、どれだけ朝早くから準備をしているのか、そういうことを学びました。それがエチェバリアの方が日本に来てくれたわけですから、こんなチャンスはない。メジャーに行かずして学べるのは大きいですよね」

メジャーでは現在、オーナー側と選手会の労使交渉がもつれ、ロックアウトが続いている。このままでは、場合によってはスプリングトレーニングの開始、そして開幕が遅れる可能性も出てくる。となると、現在フリーエージェントになっている選手の中には、野球ができる環境を求め、日本にやってくるケースもあるだろう。

12球団ともに外国人選手の補強はほぼ終わっているが、怪我をしてしまったり、調子が上がらなかったり、いつ再補強が必要になるか分からない。そこで思わぬ“大物”が来日することもあり得るだろう。海外に行かなければ分からないことの一部が、日本にいながらにして体験できる。この絶好機を上手く使わない手はない。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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