被爆者運動史の構築、たたき台に 「原爆後の75年-長崎の記憶と記録をたどる」 反核・平和の歩み整理 戦後史をのこす会

「原爆後の75年」を手にする「長崎原爆の戦後史をのこす会」の新木代表=長崎市西海町

 被爆者の生活や平和運動の歩みを記録する「長崎原爆の戦後史をのこす会」(新木(しんき)武志代表)刊の「原爆後の75年-長崎の記憶と記録をたどる」は、被爆者らへの聞き取りと、諸団体の資料保存に関するアンケート結果などで構成。長崎の反核・平和の歩みを幅広い視点で捉えようとした労作だ。新木代表(62)は「長崎の被爆者運動史を作る上でたたき台になるものとして提示した。長崎原爆について知りたい人の手掛かりとしても役立つはず」と話す。
 第1部は、30人以上への聞き取りを踏まえ、▽被爆前後▽被爆者5団体▽被爆者運動・平和運動・平和行政▽証言・記録運動▽被爆者調査▽平和教育運動-の6テーマで整理。第2部は原爆被災に関連した資料の所蔵状況に関する県内146の組織・団体へのアンケート結果などを掲載した。
 被爆者5団体(長崎原爆被災者協議会、県平和運動センター被爆連、県被爆者手帳友の会、長崎原爆遺族会、県被爆者手帳友愛会)の各代表ら8人には、会の成り立ちや歩みを聞き取った。このうち設立当時について話が聞けたのは被爆連のみ。他の4団体は当時を直接知る人が「もういない」という。残存資料も少なく、その背景としては会の関係者が亡くなった際の廃棄や、事務所の移転などが要因に挙げられるという。
 宗教関係組織や教育、報道機関などを対象にしたアンケートでは、「貴組織・団体の過去の様子や歩みについてわかる所蔵資料はどのような形態ですか」など九つの問いを提示。約48%の70組織・団体から回答があった。戦後史をのこす会は、日誌やメモ類など原爆に直接関係しない資料にも暮らしに刻まれた原爆の痕跡があるとみているが、全体的には「原爆と言えば熱線・爆風・放射線」といった原爆・被爆のイメージの狭さがあり、「資料が散在してしまう一つの原因」と考察している。
 新木代表は、被爆者5団体の他に、既に解散した被爆者団体もあるとして、「被爆者がどう生き、活動してきたのか、(記録や記憶が)本当に失われている」と警鐘を鳴らす。
 戦後史をのこす会は2013年設立。16年に証言を中心にした記録集を発刊しており、今作は21年夏刊行。A5判、416ページ、2860円。長崎市内の主要書店などで販売している。


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