<県政の現場から 2022長崎知事選> スマート農業 普及に地域差生じる恐れ コスト抑制課題、収益改善の例も

「作業を省力化しないと若い人がやりたがらない」と話す山口さん。スマート農業への期待は大きい=佐世保市内

 農家の高齢化や担い手不足を補うと期待されるのがスマート農業だ。薬剤散布ドローンや収穫ロボットなどを使った次世代農業で、長崎県内でも普及に向けた動きが進んでいる。ただ、農地の先行整備を要する場合があり、それ次第で地域差が生じる恐れも。最先端技術の導入コストを抑制し、農家がうまく使いこなせるかなどの課題が横たわっている。
 「スマート農業に関心はある。だけど、ほ場が狭いこの地域になじむだろうか」。佐世保市北部でブロッコリーとキャベツを作る山口保さん(73)はこう語る。
 山口さんによると、一帯は露地野菜の生産者が多く、農地は平均5アールほど。もっと狭い畑もたくさんある。「作業を省力化し、おもしろくしないと若い人がやりたがらない」。実際、ブロッコリーを出荷するグループの仲間は減り、後継者がいる農家はほんのわずか。「単価は20年前と変わらず、農業で収益を出すのは厳しい」という現実を変える上で、スマート化にいちるの望みをつなぐ。

 とはいえ、一朝一夕にできるわけではない。スマート化には農地の基盤整備が必要な場合がある。狭く、いびつな形では最先端技術を導入しても作業効率が上がらないからだ。
 本県の水田の農地整備率(2020年度末実績)を見ると、県北振興局管内の49.9%に対して県央振興局管内は70.5%と開きがある。スマート化に期待する佐世保市南部のミカン農家の男性(59)は「このままでは導入に地域差が出てしまいかねない」と懸念。担い手が減る中、場所を問わず、同じように生産量を維持・向上できる条件整備を行政に求める。さらに農家にとっては、先行投資の負担は小さくなく、いかに新技術に慣れるのかという課題も残る。
 既に導入した一部地域では収益性を改善した例もある。県によると、自動操縦による防除や草刈りをはじめ、人工知能(AI)を活用し、腐敗しやすい果物を選別する実証実験も進んでいる。こうした技術が、経験のない新規就農者の参入ハードルを下げる-県はそんな青写真も描く。
 県のスマート化推進は始まったばかり。「農家の意見を聞きながら、長崎県に合った形で進めてほしい」とミカン農家の男性。生産者と“二人三脚”で現状打開に向き合う県のトップを望んでいる。

 知事選では農業に関し、現職の中村法道候補(71)は「スマート農林水産業技術の導入によるスマート産地の確立」を主張。新人の大石賢吾候補(39)は「1次産業の事業再構築など挑戦を支援する体制の確保」、新人の宮沢由彦候補(54)は「家族経営、企業型経営のそれぞれの特徴を生かした生産物の高品質化と作業の省力化を進める」などとスマート農業を念頭に振興策を掲げている。


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