阪神が優勝するための正捕手は梅野か? 坂本か? 球団OBが占う争いの行方

阪神・梅野隆太郎(左)と坂本誠志郎【写真:荒川祐史】

キャンプを視察した野口寿浩氏が占う正捕手争い

阪神の正捕手争いはどうなるのか。2018年から2020年まで3年連続でゴールデングラブ賞を獲得した梅野隆太郎捕手が昨季125試合に先発したものの、優勝争いが佳境に入った最終盤は坂本誠志郎捕手が専らスタメンマスクを被った。果たして、今年のスタメンはどちらが掴むのか。現役時代に阪神、ヤクルトなど4球団で計21年間捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏がその行方を占った。

阪神の宜野座キャンプを視察した野口氏が目を光らせたのは、梅野と坂本が火花を散らしたケース打撃だった。「キャッチャーが坂本で、打席に梅野が入った場面に注目しました。梅野には進塁打のサインが出ていたと思いますが、坂本は内角に構えたり、落ちる球を要求したりして、失敗させようと躍起になっているのが伝わってきました。梅野も粘り、最終的に四球で出塁しました」と読み解いた。

その気持ちは痛いほどよくわかる。野口氏は現役時代、最初に入団したヤクルトでは名捕手・古田敦也氏の控えという立場から抜け出せなかった。1998年のシーズン中に日本ハムへ移籍すると正捕手の座を獲得。ただ、その後もチーム内のポジション争いは激しかったという。

「キャンプ中の紅白戦でも、僕だけはインコースをガンガン攻められ、挙句にヘルメット直撃の死球を食らいました。ライバルの捕手は当然、僕にだけは打たせたくなかったと思います。そこまで露骨ではないけれど、梅野と坂本の間にもバトルがあるのでしょう」

阪神は昨季終盤、梅野が打撃不振に陥り、シーズン最後の11試合は全て坂本が先発した。実績では圧倒的に劣る坂本だが、冷静なリードが首脳陣、チームメートから評価された。今年は選手間投票の結果、チームのキャプテンにも就任している。

「打撃、盗塁阻止、ブロッキングは、疑いようもなく梅野が上」

「僕にも経験がありますが、普段は控えの捕手が出場機会を得た場合に何を考えるかというと、正捕手とは違うリードをしようということです」と野口氏。昨季を回顧し「梅野は打撃の調子がいい時は、両コーナーを幅広く使い、打者に狙いを絞らせないリードができていたのですが、打撃不振に陥ると、インコースの要求が減り、そうかといってインコースに行くとなると一辺倒になっていました。坂本はそれを見て、コースが偏らないように散らしていましたし、比較的変化球が多いと感じました」と解説する。

とはいえ、もともとの打撃技術は梅野の方が上。打者としての梅野は昨季、130試合に出場して打率.225、3本塁打33打点と低迷したが、坂本は45試合で.185、1本塁打6打点とさらに下回る。

「打撃、盗塁阻止、ブロッキング(ワンバウンドの投球を後逸せずに止めること)は、疑いようもなく梅野が上。坂本も決して下手ではありませんが、梅野は球界屈指のレベルですから。特にブロッキング能力は、どれだけ投手に安心感を与えることか。走者が三塁にいてもワンバウンドの球で勝負できるとなれば、投手は思い切って腕を振ることができますから」

昨季は143試合中、梅野が125試合、坂本が18試合で先発マスクを被った。「今季も125試合くらいは梅野が出ないと、阪神は優勝を狙えないと思います。梅野を月に1、2度休ませ、そこで坂本を使っていく形がいいのではないか」と野口氏。現在、阪神の1軍キャンプでは長坂拳弥捕手を含め、3人の捕手がしのぎを削っている。捕手出身で、今季限りでの退任を宣言して不退転の決意を示した矢野監督のハートを射止めるのは、果たして誰か。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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