冬の枝に慰めを

 その人の奥深い思想を分かってはいなくても、残した多くの名言ならばいくらか知っている。キリスト教思想家で文学者、内村鑑三の至言の一つ。〈春の枝に花あり/夏の枝に葉あり/秋の枝に果あり…〉▲さらに〈冬の枝に慰(なぐさめ)あり〉と続く。花、葉、実がある頃を過ぎて、冬木立の枝がやがて小さな芽を付ける。寒空に身をすくめ、憂き目に遭って、慰めや人の心の温かさを知るのと似ているのかもしれない▲コロナ禍という寒風にさらされて、人はいくつの「慰め」を知っただろう。医療や介護に関わる人の大変さを知り、感謝の思いを届けた人ならば、きっと多くいる▲一方で木立に思いをはせるどころか、自分自身が寒天の下に立ちすくむ人もいる。街では飲食店の店先に「休業中」の張り紙を見る。職場の感染拡大で仕事が回らない所もあると聞く▲加えて冷凍食品にマヨネーズと、身近な食品にも値上げの波が押し寄せた。ガソリン価格も高値が止まらない。元をたどれば、米国などで経済が回復し始め、モノの需要が増えて値をつり上げている▲どれもコロナが吹かせる北風で、大方の人が多少なりとも風に揺れる「冬の枝」なのだろう。すっかり葉が落ちた、木の枝越しに見える星を「枯木星(かれきぼし)」と呼ぶらしい。木立が小さな芽を付け、星のまたたく夜を待つ。(徹)

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