長崎県知事 交代12年ぶり<上> 現職敗れる 「戦う相手が違う」

敗戦の弁を述べた後、支持者と握手を交わす中村氏(右)=20日午後11時40分、長崎市出島町の県JA会館

 20日投開票の知事選の結果、長崎県のトップが12年ぶりに交代することになった。新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置の適用下での選挙戦。大接戦の勝敗を分けたものは何だったのか。背景を探った。

 20日夜、長崎市中心部の県JA会館。現職中村法道氏(71)の支援者の間には、新人の大石賢吾氏(39)の得票を思ったほど引き離せず、重苦しい空気が漂っていた。だが午後10時半ごろ、「中村1万4799票、大石4330票」と大差が付いた南島原市の開票結果がアナウンスされると、「おぉ」という歓声と拍手が湧き起こった。会場に活気が戻ったが、約1時間後、テレビが大石氏の「当確」を速報。支援者からはため息が漏れ、若い選挙スタッフは目を真っ赤にしていた。その差わずか541票。投票総数の0.1%だった。
 告示日の3日。長崎市での出発式には同市長の田上富久氏ら5人の首長、分裂している自民党のほか、立憲民主、国民民主両党の県市議らがずらりと顔をそろえた。選対本部長を務めるのは、集票力のある県農政連盟委員長の辻田勇次氏。県内最大の労働団体、連合長崎の幹部も姿を見せ、「単純に足し算をすれば勝てる選挙」(労組関係者)のはずだった。
 当初は大石氏について複数の陣営関係者が「よく知らないが、人柄はいいようだ」「経歴は申し分ないのに(負けたら)もったいない」と余裕とも取れる発言をしていた。
 一方、告示後は、公務のコロナ対策に専念中の中村氏に代わり各地で街頭に立った県議ら弁士が、大石氏擁立を主導した自民衆院議員の谷川弥一氏=長崎3区=や、支援に回った自民参院議員で農相の金子原二郎氏=長崎選挙区=への批判を展開。自民分裂の“内幕”を描いたネット記事のコピーも支援者に配られた。
 こうした動きに対し、一部の陣営関係者は「対抗馬の大石氏本人を見ておらず、戦う相手が違う」と違和感を覚えていた。「自民分裂のごたごたは一般の有権者には関係ない」(中村氏周辺)と眉をひそめる向きもあった。
 実際当選しても、政権与党の谷川、金子両氏の協力なくして、スムーズな県政運営ができるとは県上層部は考えておらず、「選挙後が大変」と心配する声が漏れるほどだった。
 気が付けば、報道各社の調査で大石氏がすぐ後ろまで迫ってきていた。焦った自民県議らに求められ、中村氏は悩んだ末に選挙カーに乗った。ある陣営関係者は「なぜ最後までどんと構えて横綱相撲をしなかったのか」と首をかしげる。各推薦団体も終盤になって組織内の浸透を強めたが、投票総数の約4割を占めた期日前投票の「(大石氏追い上げの)流れを止めきれなかった」(連合長崎幹部)。
 非自民系県議はコロナ禍という点に着目する。「各知事の手腕に注目が集まる中、中村氏はしっかり仕事をしているのに見せ方が上手とは言えない。有権者が消極的にだが、大石氏に流れたのではないか」
 パフォーマンスを好まず実直と言われてきた中村氏。20日深夜、支援者を前に敗戦の弁をこう述べた。「県政には課題が山積しており、新しいリーダーの下でしっかりと未来を切り開いてほしい」


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