週末を丸々費やす少年野球は“やり過ぎ”? 1週間の合計12時間が「理想的」な理由

東大野球部の監督を務めた浜田一志氏【写真:編集部】

元東大野球部監督の浜田一志氏が推奨する時間の使い方とは?

野球しかできない子に育てたくない――。そう思う保護者の方も多いのではないでしょうか。2013年から2019年まで東大野球部の監督を務めて手腕を発揮した浜田一志氏は現在、部活と勉強の両立を目指す学習塾「Ai西武学院」の塾長を務めている。文武両道の“最高峰”で手腕を発揮した浜田氏に、勉強と野球のバランスに大切なことをうかがった。

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子どもを文武両道にするなら、小学生のうちから「勉強もする」「スポーツもする」という環境に置くことです。小学生の時についた生活習慣というのは、中学生に移行していきますから、小学生のうちに野球ばっかりやっていれば、その後も野球しかしなくなります。

同じく小学生のうちに勉強しかしていなければ、その後、野球をしようとは思わないでしょう。世界を見れば一日中、農作業をしているような子どももいますが、その子たちはそういう環境の中でずっと育ってきましたから、それが当然のことと思ってしまうのと同じです。

小学生のうちに勉強をして、スポーツもして、一日の中でスイッチを切り替えるという習慣をつけることが大事です。子どもは、楽しいことがあるといつまでもやり続けます。順番でいえば、まずゲーム、次に野球などのスポーツで体を動かすこと、そして勉強。スイッチの切り替えができない子は、一日中、ゲームをやっていませんか?

ただ、体というのは正直なもので、やりすぎると疲れたり、痛みが出たりして、もうやめなさいというサインが出る。そうなったら子どもは自然とやめるので、自分からやっているうちは、そういう疲れや痛みはあまり心配しすぎることはありません。

大人は子どもの「生理的時間」を考えるべき

野球に目を向けてみますと、むしろ問題なのは大人がやらせすぎることです。毎日、素振りを何百回とかノルマを課して、できないと怒るというようなやり方はよくないです。子どもは怒られたくないので、無理してやりすぎてしまいます。骨が成長している時期に負荷をかけすぎると、体を壊す原因になります。熱心に指導するのは結構ですが、子どもの体の生理学というのを理解して指導してほしいです。

勉強と野球に費やす時間のバランスを決める上で、子どもの生理的時間を知っておいた方が良いでしょう。生理的時間とは人間が生きていく上で最低限必要な時間のことです。小学校高学年だと「寝る時間」「食べる時間」「お風呂に入る時間」などを足して、だいたい12時間になります。

従って、小学生の活動時間というのは12時間が限界です。このうち、3時間は何も予定のないフリーな時間を入れておかなくてはならないので、休日ならば、残りの9時間。平日ならば、学校に通っている6時間を除いた残りの3時間が家庭学習や野球に充てる時間になります。

これらを勘案すると勉強と野球を両立させ、無理のないスケジュールを立てるなら、野球をする時間は1週間に12時間以内が目安になります。となると、学童野球で平日はチームで集合はしないにしても、素振りなどの練習ノルマが課されていて、土日は練習、試合で丸一日潰れてしまうというのは、明らかにやりすぎです。

土日で6時間ずつでも構いませんが、そうすると平日は一切、野球はできなくなります。その6時間は練習時間ではなく、家を出てから帰るまでの時間です。それならば毎日1、2時間くらいずつやって、週合計12時間という方が理想的です。子どもは運動強度が低い分、回復が早いので、毎日、ちょこちょこ体を動かすことができる。集中力も長続きしないので、時間も短い方が良い。毎日少しずつ続けることで、習慣づけにもなります。

○浜田一志(はまだ・かずし)1964年9月11日生まれ、高知県出身。土佐高校で野球部に所属し、東大理科二類に現役合格。野球部に入部し、4年時に主将を務めた。東大工学系大学院を修了後、会社員を経て1994年に文武両道を目指す学習塾Ai西武学院を開業。2013年から2019年まで東大野球部監督を務めた。2015年の東京六大学春季リーグで東大の連敗を94で止め、2017年秋には30季ぶり勝ち点を挙げた。(石川哲也 / Tetsuya Ishikawa)

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