真夏の日差しが照りつけたインターハイ準々決勝。最後の打者を空振り三振に仕留めると、川瀬百花は重圧から解放されたようにマウンドで空を見上げた。
「あの瞬間は勝てた喜びより、ほっとした気持ちが大きかった」
ずっと悔しさを共にしてきた仲間たちが駆け寄ってきて、歓喜の輪をつくっていく。「4校同時優勝」の実感が、少しずつ込み上げてきたのを覚えている。
昨年8月のインターハイは、雨天に伴う日程変更で準決勝以降の中止が決まった。勝っても負けても、準々決勝で終わり-。一般的にはスッキリしない幕切れなのかもしれないが、自身にとっては逆にモチベーションが上がる展開だった。
準々決勝の相手は練習試合を含めて一度も勝ったことがない佐賀女。3月の全国選抜大会でも痛打を浴びて決勝進出を絶たれていた。
「佐賀女に勝って終わる」。そう心に誓い、長崎商のユニホームを着て臨んだ最後の試合。毎回のように走者を背負いながら、何度もピンチを切り抜けて県勢初となる夏の優勝旗を勝ち取った。この大会、全4試合に登板して、3試合を1人で投げ抜いてみせた。
快挙の立役者となったエースについて、溝口監督は「入学当初からいい選手だったけれど、特に目立っていたわけでもない」と振り返る。マイペースで、前に出たがるタイプでもない。分かりやすい「エース像」とは異なるが、そんな性格だったからこそ成長できた部分は多々ある。
走り込みや筋トレなど地味な練習でも手を抜かず、地道に取り組んだ。学業も真面目に励み、全商検定は簿記をはじめ3種目で1級合格。「やるべきことをこつこつと頑張れる」。そんな心の強さが、マウンド上の冷静さを生んでいた。
春からは福岡大へ。九州トップ級の環境で競技を続ける一方、新たな夢へのスタートも切る。高校時代に実績を残した多くの選手がスポーツ科学部に進む中、選んだのは人文学部。「困った人を助ける仕事がしたい」と心理カウンセラーを目指すことにした。ソフトボールも勉強も、心新たに全力投球する。
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高校時代に各種大会で活躍した3年生が門出の時を迎えた。次のステージへと羽ばたくトップアスリート8人にスポットを当てた。