株主優待銘柄の“売りどき”は?優待をムダにしない選び方、避けるポイントを解説

株式投資の魅力のひとつに「株主優待」があります。企業が株主に対して特別な商品やサービスを提供するもので、株主優待を主目的に企業の株を買う投資家もいます。一方で、株主優待に興味はあるけれど「どれを選べばいいかわからない」「個別株投資はハードルが高い」と感じている人もいるのではないでしょうか。

今回はそんな株主優待について、銘柄の選び方や個別株投資への考え方を、株式会社マネーフォワードの執行役員サステナビリティ担当CoPA (Chief of Public Affairs)の瀧俊雄氏に話を聞きました。


株主優待は個人投資家“優遇”制度

――株主優待になじみのない立場からすると「株主優待はオマケ」くらいの印象ですが、そんなに良いものなのでしょうか。

瀧俊雄氏(以下、瀧):株主優待というは日本独自の株主還元制度なんです。以前、米国のシンクタンクの人に日本の株主優待制度について話をしたら「それは日本では合法なのか?」と質問してきました、「株主平等の原則に反する」と。

どういうことかというと、1単元※株主と100単元株主を比較した場合、もっている株の価値は100倍の差があります。しかし、もらえる優待の内容は、株数に応じて多少の差はあるものの、100倍になることはまずありません。つまり、1単元投資家、限られた額を投資する個人投資家にものすごくメリットがある制度なんです。
※1単元…株の売買単位。日本の上場会社では100株を1単元とすることが多い。

優待はもらったとしても使わなければ意味がありません。優待によっては利用期限があったり、利用条件が課せられているものもあるので、選ぶのが難しいという意見にも頷けます。きちんと使える優待を選ぶには「現在の生活の中で使えるか」を基準に考えるのがポイントです。

――「生活の中」ですか、具体的にはどんな銘柄が考えられますか?

瀧:たとえば百貨店です。百貨店に毎日買い物に行くという方は少ないと思いますが、贈答品を買ったり、小さい子どもを連れたお出かけ先として百貨店はとてもいい場所です。上場している大手百貨店の多くは買い物が10%割引になる株主向け優待カードを出しています。とはいえ、セール時は割引率が変更されたり、利用限度額があるなどの各社ごとに利用条件がありますので、内容を比較してみるのも面白いですね。

個人的には、松屋(8237)の「有料文化催事の入場が無料」というのは嬉しい内容だなと思います。松屋銀座店の催事は家族で楽しめる内容が多く、私も3歳の子どもと行くのですが、事前にコンビニで時間指定のチケットを買ったものの、子どもが当日いきなり体調不良ということだってあります。その点、優待では予約もいらず、無料なので再チャレンジでき、大人も子どもも安心です。

さらに日常使いする施設といえば、スーパーマーケットです。イオン(8267)の株主優待カードは、持株数に応じて買い物金額の3〜7%がキャッシュバックされます。このキャッシュバックはなんと「現金」なんです。返金取り扱い店舗での手続きが必要になるため、近くにない人にとっては少し手間ですが、日常使いしている人であればとてもオトクな内容です。

子どもがいる人は玩具メーカーという選択肢もあります。タカラトミー(7867)は株主向け特別仕様の「トミカ」や「リカちゃん」がもらえる他、公式通販サイト「タカラトミーモール」で商品を10%割引で買うことができます。さらに3年以上株を保有し続けると、割引率が驚異の40%になるんです。公式ですから、他の通販サイトで品切れの商品が買えることもあって、ありがたいですね。最近は新米パパママに、子どもが生まれたらまず一単元買ってみて、と伝えたりしています。

個別株を持つことは、経済に深く関心を持つ良いきっかけにもなります。また、優待を待つということは、長く株式を保有する言い訳にもなるので、株価のアップダウンへの耐性もできます。このような良い副作用もあるので、数銘柄自分に合ったものがあるかを、ぜひ探してみてはと思います。

おすすめしない優待銘柄の特徴3点

――逆に、「選ばないポイント」はありますか?

瀧:「普段は使わないけど優待でもらえるなら…」と今の生活サイクルに組み込まれてないもの目的に株を買う方もいますが、あまりお勧めしません。優待を楽しむのは良いのですが、日々の忙しさにかまけていたら「使わないまま使用期限が過ぎてしまった!」というのはよく聞く話です。また、優待を「使うこと」が目的になってしまうと、純粋にそのサービスを楽しめなかったりします。優待を基準に生活を組み立てるのではなく、現在の生活をオトクにできるサービスはないか、という目線で選ぶのが良いと思います。

また、上場企業にとって株主優待の実施は義務ではありません。企業の判断でいつでも変更、場合によってはなくすこともできます。ですので、その優待を維持するのに相応以上のコストがかかっていそうなもの、言い換えれば「本業ではない商品やサービスを優待にしている」「優待利回りがあまりに高い」といった場合、その優待内容は長続きしないことが多い印象です。

あとは価格です。いくら優待の内容が魅力的でも、値がさ株※に無理して手を出す必要はないと思います。もちろん、投資資金に余裕があれば問題ありませんが、リスク分散するべきポートフォリオを歪めたり、日々の生活を圧迫してまで優待に手を出すのは得策ではありません。優待がもらえる最低株数がいくらからなのか、株価水準はどのくらいなのか、条件を確認しましょう。
※値がさ株…1単元あたりの株価の水準が高い銘柄のこと。

以上を念頭に銘柄を選ぶと、楽にオトクに優待を利用できるのではないでしょうか。

株主優待銘柄の“売りどき”は?

――とはいえ、このように市場環境が目まぐるしく変化する状況では、投資初心者が企業の将来性を見極めるのはとても難しいと感じます。買った企業の株が暴落したらどうしよう、という不安にはどのように向き合えばよいでしょうか。

瀧:株価は様々な要因で決まるので、短期の値動きを見極めるのはプロでも難しいことです。ただ、中長期的な株価を決める大きな要因は企業業績です。企業が提供しているサービスが多くの人に使われれば、その企業は成長し、株価もそれに見合った動きをしていくでしょう。

そういった意味でも、まさに今、自身が選んで利用しているサービスであれば、世に必要とされ成長する可能性があるサービスであると考えることができます。裏を返せば、自身がサービスを利用しなくなったら、その株式は“売りどき”なのかもしれません。

――サービス利用者としての感覚を大切に、ということですね。

瀧:株主優待の有無に関わらず、自分が使って良いと思うサービスを提供する企業に投資をする、これは極めて健全で王道な投資姿勢です。短期の値動きに惑わされず企業の成長を信じて株を持ち続ける、その“握力”を維持する1つの要素としても、株主優待は利用できるのではないでしょうか。


※本記事に掲載している情報は2022年2月末日時点のものです。
※株主優待の内容は変更される場合がありますので、必ず当該企業のホームページ等をご確認ください。
※本特集は個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はお客様ご自身の判断でお願いします。

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