【東日本大震災11年】ウクライナ人音楽家「私たちは一人じゃない」 平和と復興願う音色響かせ

母国ウクライナの平和と被災地の復興を願いステージに立つカテリーナさん=10日午後5時、横浜市中区

 3月10日の夕暮れ時。いつものように、東日本大震災に思いをはせるはずだった。生後1か月に自宅近くで遭遇したチェルノブイリ原発事故の悲惨さを、今年も訴えるはずだった。

 横浜市中区で開かれた被災地の復興祈念イベント。「本当はこんなはずじゃなかったんですが…」。マイクを手にしたウクライナ人音楽家カテリーナさん(35)は最初の曲を歌い終えると、ロシア軍の侵攻について触れ、言葉を詰まらせた。

 横浜の夜空に、民族弦楽器バンドゥーラの切ない音色が鳴り響く。母国で親しまれる「金色の花」。口ずさむたびに郷愁に駆られ、遠く離れた祖国の母を思い浮かべた。

 初来日から25年。首都キエフに暮らす68歳の母を日本に迎え、ともに暮らす予定だったが新型コロナウイルス禍で先送りに。収束を待ちわびる中で戦禍に見舞われた。「とにかく逃げて」。母は戦地をくぐり抜け、3日かけて隣国ポーランドに逃げ延びたという。

 情勢悪化のニュースは絶え間なく届く。見慣れた街を戦車が走り、民家や学校、病院まで砲弾に破壊された。「こんな時に歌っている場合じゃない」。横浜の復興イベントには何度も参加してきたが、今年は活動自粛も頭によぎった。「今だからこそカテリーナの歌が必要」。最後に背中を押してくれたのが観客だった。

 「ウクライナのことを伝えたい」。決意を胸に声を張った。「翼をください」「イマジン」─。平和を願って日本語や英語で歌い上げた。

 客席でウクライナ国旗がはためく光景に「国旗を見ると歌うことさえつらくなった」。ただ、観衆から送られたエールは届いていた。「私たちは一人じゃない」。笑顔で歌える明日を信じ、平和の音色を絶やさない。

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