地域と連動する「部活動指導員」って? 硬式やクラブチームだけでない中学野球部のメリット

中学部活指導員を務める家城雅一さん【写真:本人提供】

少年野球の監督も長く務めた東京・三鷹市立第二中学校野球部の家城雅一さん

教員顧問の人材不足など、公立中学部活動の問題解決法として「部活動指導員」という制度がある。東京・世田谷区内の学童野球チーム監督を約15年務め、スポーツメンタルコーチングも学んだ家城雅一さんは、東京・三鷹市立第二中学校野球部の部活動指導員として活動する。学童野球が活発な地域の特性を活かした小中一貫指導など中学野球部の新しい在り方を模索し「わくわくしています」と野球部の部活動にまだまだ可能性を感じている。

――少年野球の指導も長くされた家城さんは、あまり聞き慣れない「部活動指導員」という肩書をお持ちです。監督でもなく、顧問でもない。どのような指導をされているのでしょうか?

部活動指導員は、公立中学校の部活動で、顧問の先生の代わりに指導や引率ができる外部の指導者のことです。身分は学校職員になります。技術指導だけでなく、マネジメントも含め部活動運営全般に携わらせてもらっています。

――肩書は、野球部の顧問になるんですか?

いえ、顧問の先生は責任者として別にいらっしゃいます。私は子どもたちに監督と呼ばれるのは嫌なのでコーチと呼んでもらっています。

――外部の指導者ということは学校側の理解で成り立つ役職かと思います。どのような経緯で三鷹二中の部活動指導員になられたのですか?

私が定期的に開いているメンタルコーチングの勉強会に、三鷹二中野球部の保護者のお母さんがいらしていて、新学期から野球未経験の先生が顧問になって、子ども達も、保護者も、戸惑っているという相談を受けました。それで「私で良ければ、お手伝いしましょう」ということになりました。

――部活動指導員になるのに、必要な資格はあるのですか?

熱意と情熱だけです(笑)。ただ、採用にあたっては、日本スポーツ協会の公認コーチの資格を持っていた方が良いかもしれません。

――子ども達に野球の楽しさを伝えたい、長く続けてほしいという思いが重要ですね。そのような意識の高いコーチはクラブチームの指導者には増えてきた傾向もあります。家城さんは学校職員ということですが、実際のところ待遇面はどうなのでしょう?

報酬はいただいていますが少ないですね。日本はまだまだ指導者=ボランティアという考え方が根強いようです。改めてほしいですね。

中学で部活動を選択するメリットはある、部員を増やすための秘策は?

――人手不足や、顧問の先生が野球を教えることができないという学校も増え、中学の野球部の部活動が“消滅危機”に直面していると聞きます。部員不足に悩む中学野球部も多いようですが、三鷹二中はどうでしょうか?

学区内に学童野球チームが3つもありまして、各学年10人以上部員が集まるんです。もちろん硬式のクラブチームに進む子もいますが、費用面の問題もありますから、家庭によっては部活動を選ぶようです。

――部活動指導員を採用しているところをみると、自治体も部活動のあり方に目を向けている気がします。

三鷹市は小中一貫教育に熱心ということもあって、部活動でも小中の連携ができないか検討しているところです。海外では地域スポーツクラブが根付いていて、それこそ幼稚園からプロまで串刺しで一本になっているじゃないですか。三鷹二中の学区で小中9年間を一貫指導できたら面白いなと考えたりしています。まったく同じではありませんが、部活動を軸に学校が地域に密着した形で存在していく、新しい在り方ですよね。

――小学校で一緒にやっていた“先輩”の進路は子どもたちの中では気になるポイントではありますね。それに学童の卒団から、中学入学までの時間も多ければ3か月ほどあります。具体的に部員を増やすための取り組みをお考えですか?

学童野球の子たちって、6年生の12月に卒団すると中学入学まで「やることがない」という話しをよく耳にするんです。だから12月に学区内3チームの6年生を集めて、中学生が審判をする卒業試合をしてあげて、翌週からは野球部の練習に参加してもらう。そうやって入学後の部活動へとつなげられたらいいなと考えています。

――高校でも野球を続けて、甲子園を目指すような子達は、クラブチームを選ぶことが多いと思うのですが、中学で部活動を選ぶメリットはどこにあるのでしょう?

部活動では単にスポーツをするだけではありません。教職の専門家である先生が指導、監督にあたり、教育課程とも連携が図られていますから、子ども達にとっては学びの場でもあるんです。クラブチームと比べて、より教育的効果は高いと言えるでしょうね。

――部活動か、クラブチームかではなく、大事なのは子どもたちの成長であり、野球人口の拡大ということですね。

そういうことです(笑)。日本には野球の一貫指導がほとんどありませんから。小学生が中学生のプレイを見て目標にしたり、中学生が小学生に野球を教えるなど連携することでのメリットは多く、どんなことができるのかワクワクしています。

〇家城雅一(やしろ・まさかず)1960年5月27日生まれ、東京都出身。桐蔭学園中学、高校で野球部に所属し選手として技術を磨き、大学までプレー。日本マクドナルドで少年軟式野球などスポーツマネージメントに携わるかたわら、指導者として世田谷区の学童野球チームの監督を15年経験した。2012年に日本スポーツ協会の公認コーチ資格を取得。2015年にスポーツメンタルコーチ認定資格を取得し、2017年8月からは三鷹市立第ニ中学校の部活動指導員として野球部の指導にあたっている。

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