割れた「殺生石」は「冷戦」の予兆か?発見日とチャーチルの「鉄のカーテン演説」が同日という偶然

栃木県・那須岳の斜面にある「殺生石」が真っ二つに割れていた…というニュースが話題になった。退治された「九尾の狐」の怨念が宿り、その毒気から多くの生き物の命を奪ったという伝説がある石が割れたことで、SNSでは「不吉の前兆」というコメントが相次いだ。女優でジャーナリストの深月ユリア氏は、石が割れていたことが最初に確認された「3月5日」という日付に注目し、歴史上の事実を踏まえながら、現在のウクライナ危機から「再び冷戦が起こる」予兆ではないかという仮説を私見としてつづった。

◇ ◇ ◇

3月5日、栃木県那須町の「九尾の狐」が封印されている、といわれる「殺生石」が真っ二つに割れていたことが分かった。「九尾の狐」は国を滅亡させるほどの強い霊力を持つという逸話があり、 「殺生石」は古来より「生き物を殺す石」だと恐れられてきた。

【日本、中国、インドの「九尾の狐」伝説】

「殺生石」にまつわる伝説によると、鳥羽上皇は 「九尾の狐」の化身である玉藻前を寵愛(ちょぅあい)していた。しかし、陰陽師の安倍泰成によって正体がばれて、東国に逃れたのを退治すると、狐は毒を発する石に姿を変え、人々や生き物の命を奪い続けたという。そして、至徳2年(1385年)には玄翁和尚によって「殺生石」は打ち砕かれ、その一部が今回の栃木県の「殺生石」である。

中国、インドでも「九尾の狐」に関する伝説がある。

中国では、 紀元前11世紀頃の中国・殷(いん)の時代で、紂王(ちゅうおう)は妲己(だっき)という美女を寵愛したが、彼女の正体は「九尾の狐」だった。妲己は無実の人々を拷問しながら処刑するのを楽しんでいた。悪政も要因となり、殷は周の武王に攻め滅ぼされ、紂王は自殺した。妲己は囚われ、「照魔鏡」という人間に化けた妖怪の正体を暴く鏡を投げつけたところ、 「九尾の狐」に姿を変えて消え去ったという。

インドでは、耶竭陀(まがた)国の班足太子が寵愛した華陽婦人が「九尾の狐」の化身だった。彼女は千人もの人の首を切らせるなどの虐殺を働いたが、正体がばれてしまい、正体を現して北の空へと逃げていった。

【やはり不吉?冷戦構造の再来?】

今回、「殺生石」が割れたことで「不吉な予兆ではないか」と、ささやかれている。

実際にウクライナでの戦争の真っただ中だったこともあり、インターネット上では「ウクライナ戦争が第三次世界大争に戦火が拡大するのか」「プーチンが狂った原因は、九尾の狐がとり憑(つ)いたから」「プーチンの怨念か」など、さまざまな噂がある。今回のウクライナ戦争で、世界は欧米VSロシアと親ロシア諸国と、冷戦以前の構造に分断された。

そして、なんと偶然にも、石が割れていたことが判明した「3月5日」という日付は、76年前(1946年3月5日)、イギリスのチャーチル元首相が訪米中に「鉄のカーテン」演説でソ連の東欧諸国囲い込みを批判し、自由主義陣営の結束を呼びかけた日だ。

「バルト海のシュテッティンからアドリア海のトリエステまで、ヨーロッパ大陸を横切る鉄のカーテンが降ろされた。中部ヨーロッパ及び東ヨーロッパの歴史ある首都は、全てその向こうにある)。- ウィンストン・チャーチル」

この頃から「冷戦」という言葉が生まれた。「殺生石」は元々ひびが入っていたようなので、単純にウクライナ戦争と結び付けるのは拙速かもしれないが、不運な予兆でないことを願う。

(ジャーナリスト・深月ユリア)

© 株式会社神戸新聞社