歌は世に連れ

 「歌は世に連れ」と言われるが、歌詞によく使われる単語を年代別に比べると「世に連れ」がデータで明らかになる。博報堂生活総合研究所が、昭和から今までにヒットした4100曲を分析し、分かった▲1980~90年代の曲に多く使われた単語は「恋」「夜」「夏」「男」「女」…。博報堂総研は「夜に、夏に、恋をわずらう男女の様子がよく歌われた」とみている▲夜に、夏にと恋い焦がれたわけではないが、この時代に若い日を過ごした身には分からなくもない。何かにつけて上気(じょうき)する時代だった覚えがある▲これが2000年代になると「空」「明日」がよく歌われた。「長引いた不況の影響か」と分析が添えてある。未来はどうなるの、と空を見上げて、明日を思う。物思いの時代と言えなくもない▲2010年代からの代名詞は「自分」「手」「未来」「世界」。その昔、「俺」「おまえ」が主流だった一人称と二人称は「僕」「君」に入れ替わった。「君」とは、思いを寄せる人、友人、家族-と、さまざまに受け止められる歌詞も多いという▲自分の手で、あるいは君と手を取り合って、未来や世界を開いていく。歌が時代を映す鏡だとすれば、前方に薄明かりが差すようでもある。別れと出会いが交差するこの季節、「僕」や「君」の前途の洋々たれ。(徹)

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