選抜高校野球に挑む 長崎日大マネジャー 緒方伊吹(2年) 何よりもチームのために

「自分の一つ一つの行動がチームの勝敗に必ず関わる」とグラウンドを駆け回る長崎日大のマネジャー緒方=諫早市、長崎日大学園野球場

 選手ではないのに、手のひらには分厚くて硬いまめがいくつもある。選抜高校野球大会(18日開幕・甲子園)に臨む長崎日大の緒方伊吹は「冬に(ノックを)打ちに打ったんで皮も破れまくった」と笑う。チームで代々受け継がれている選手からマネジャーへの転向。今季、その厳しい役目を任された2年生は、指導陣や仲間の誰もが「チームに不可欠」と認める存在に成長している。
 中学時代は硬式クラブで有名な長崎リトルシニアでプレー。当然、選手で甲子園を目指して入学したが、新チームが始動した昨夏、全員で「今年は誰が」と話し合った末に推薦された。腰の分離症を患っていたとはいえ、1週間、悩みに悩んだ。でも、誰かがやらなければチームは前に進まない。「やるからには甲子園でスコアを書こう」。覚悟を決めた。
 マネジャーは1人。練習中はメニューや時間の管理、間食の用意、居残り組へのノックと慌ただしく駆け回る。「最初は怖かったけど、今はそれを後悔している」と言えるほど“嫌われ役”に徹してきた。ルールを破り、言い訳をした選手には2週間のトイレ掃除や練習補助を言い渡し、学校の課題を提出しなかった下級生には「終わるまで来るな」とグラウンドから追い返した。「自分の一つ一つの行動がチームの勝敗に必ず関わる」。責任感だった。
 そんな自分のために、仲間は部室のホワイトボードに「いぶきを甲子園に連れていく」と書いてくれた。家族も「後悔しないよう」と変わらず応援してくれる。いつも着けている腕時計は、中学入学時に母が買ってくれたものだ。
 日本史が好きで、将来は長崎で教壇に立ちたいと思っている。その目標に向けても「周りがよく見えるようになった」という経験は大きい。間もなく現実になる「甲子園でスコアを書く」も貴重な財産になるだろう。
 1回戦の相手は昨夏の甲子園4強の京都国際。「個の能力は向こうが上かもしれないけど、チーム力では勝てる。全国で32校しかいない甲子園を本番の夏にも絶対に生かす」と力強く言い切る。
 プレーヤーへの未練や後悔は「もうない」。この立ち位置を築き上げてくれた歴代の先輩たちに報い、そして、何よりもチームのために。これからも、どこにも負けないマネジャー像を追い求めていく。


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