元燕の名遊撃手もイップスに苦しんだ… 選手にも指導者にもヒントになる克服法

ヤクルトなど3球団で活躍した大引啓次氏【写真:伊藤賢汰】

大引啓次さんは高2で出場した選抜大会で“送球難”に苦しんだ

守備の名手もイップスで悩んだ時期があった。遊撃手として活躍した元ヤクルトの大引啓次さんは高校時代、思い通りの送球ができず「野球人生で一番苦しんだ」という期間があった。克服できた理由は、沈黙を貫いた監督の対応と監督に課された練習。選手にも指導者にも、解決のヒントとなる。

プロ1年目からオリックスで遊撃のレギュラーをつかみ、その後は日本ハムとヤクルトで活躍した大引さんは高い守備力で知られていた。2019年まで13年間、プロの第一線でプレーしてきた姿からは想像がつかないが、かつてはイップスに苦しんだと明かす。

「送球が突然おかしくなりました。しっかりしないといけないと思うほど、ドツボにハマりました。野球人生で一番、送球に苦しみました」

大阪府にある浪速高2年時の2001年に選抜高校野球大会に出場した大引さん。突然イップスになったのは、選抜出場が決まった直後だったという。甲子園は球児の憧れの地。大阪で生まれ育った大引さんも、子どもの頃から夢見た舞台だった。夢が現実になると、喜びと同時に重圧がのしかかった。「練習や練習試合で一塁への送球があさっての方向に行ったり、とんでもないワンバウンドになってしまったりしました。打撃にも悪影響が出ました。あの状態で、よく監督が使ってくれたと思います」。遊撃のレギュラーだった大引さんは当時を振り返る。

選抜を迎えても、イップスは治らなかった。「大きなミスはありませんでしたが、ごまかしながら送球していました」という大引さんは今でも鮮明に覚えている場面がある。3回戦で1点リードの9回2死一、二塁、相手打者の打球が遊撃を守る大引さんのところへ転がってきた。大引さんは捕球して一塁に送球。しかし、一塁手が最も捕りにくいハーフバウンドになってしまった。一塁手がすくい上げて事なきを得たが、大引さんは「みんなが勝利に歓喜する中、自分は素直に喜べませんでした。もし、悪送球になっていたら野球が嫌になっていたかもしれません。一塁手に助けられました」と語る。

監督から課された練習で取り戻した送球の感覚

大引さんは選抜が終わると、監督から1つの練習メニューを課された。二塁手のポジションに就き、一、二塁間のゴロを捕球して併殺を取る時のように体が流れた状態で二塁へ投げる練習。これを繰り返し、大引さんは送球の感覚を取り戻した。

「送球に苦しんでいた時は、指先でボールをコントロールしようとしていたのが原因だったと思います。自分では『後ろで放す感覚』と表現するのですが、送球はボールを握った右手が頭の後ろにきた時点で終わり。そこで決まっているんです。監督に課された守備練習では、二塁送球をピンポイントで遊撃手に投げるのではなく、二塁ベース辺りに投げる感じでやっていました」

もう1つ。イップスを克服できた理由は、当時の指揮官だった小林敬一良監督の対応だった。大引さんは小林監督から送球について、ほとんど何も言われなかったという。イップスに苦しんだ頃から20年が経った今も、年に1度は恩師の下を訪ねる。「監督は今になって『ガミガミ言わなかったのはファインプレー』と笑いながら自画自賛していますが、その通りです。あの時、自分が反対の立場だったら、あの手この手を使って送球を修正しようとしていたと思います」と感謝する。

人生に「たられば」はない。だが、もしも小林監督が大引さんのイップスを無理やり直そうとプレッシャーをかけていたら、選抜3回戦でハーフバウンドの送球を一塁手が後ろに逸らしていたら……。大引さんの守備をプロの舞台で見られなかったかもしれない。

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