60歳で「企業型DCの加入者資格喪失」の通知、定年後はどうするのがベター?

2022年4月から個人型や企業型を含め確定拠出年金の改正が続きます。今回は改正前に60歳で定年を迎えられた方からの相談事例をもとに、確定拠出年金の改正ポイントについてお伝えさせていただきます。


定年後の企業型DCをどうするのがベターか知りたい

日頃からファイナンシャル・プランナーとして活動している筆者ですが、主に50代の方からのご相談を多くいただきます。今回お伝えするのは、60歳で定年を迎えられたAさんからの企業型確定拠出年金(以後、企業型DC)についてのご相談です。

最近Aさんは、企業型DCの運営管理機関から加入者資格を喪失した旨の通知を受け取りました。給付を受けてしまった方が良いのかを含めてベターな方法について相談したいとのことです。

まずは、周辺情報の確認が必要です。具体的には、今後の働き方や収入、他の退職金があるか否かなどに加えて、Aさんがこれからどんな暮らしをしていきたいのかを丁寧にヒアリングするのも大切です。

Aさんに伺ったことをまとめると、今後は1年ごとの雇用契約になること、とりあえずこれから1年間の勤務は確定しているが、その先についてはまだ決めかねているとのこと。また、退職一時金など他の退職金は無く、持ち家で住宅ローンは完済済み、65歳まで生活できる金融資産は確保している、ということがわかりました。

確認したい3つの選択肢 自分にベターな選択はどれ?

以上をお聞きしてお伝えしたのが3つの選択肢です。

1)企業型DCの老齢給付金を受け取る

60歳になったので、老齢給付金を受け取ることができます。その際、一時金で受け取れば、税制メリットがあります。具体的には勤続年数に応じた「退職所得控除」を活用することです。

今回のケースでは、企業型DCの加入期間15年に対して退職所得控除は600万円(40万円×15年)になります。つまり、老齢給付金600万円までは税金はかかりません。600万円を上回った場合は、超えた金額に1/2を掛けた金額が課税対象となります。税率は金額に応じて決まっており、他の所得とは分けて課税されるところにも優遇措置があります。

いっぽう、一時金ではなく年金形式で受け取ることも可能です。その際、勤務先で定められたルールの中から、自分で分割回数や支給年数を選びます。年金形式で受け取るときの課税方法は、前述の一時金と異なります。具体的には「公的年金等控除」という控除を受けることができます。実際に税金がかかる金額は、「公的年金等の収入金額の合計額×割合−控除額」で算出しますが、受け取る本人の合計の所得金額をはじめとして、公的年金等の収入の合計額や年齢(65歳未満、65歳以上)で計算方法が異なるので注意が必要です。

※参照:企業年金連合会

また、年金形式で受け取る場合に意識しておきたいことがあります。公的年金の受け取り開始が65歳からの人にお伝えしたいメリットです。60歳から65歳になるまでの5年間は「公的年金等控除」を丸々利用することができます。合計所得が1,000万円以下なら年間60万円以下の受給額までは非課税ですから、5年で300万円の非課税枠を作れるわけです。定年後に所得1,000万円を超えるケースも余り考えられませんから、年金形式で受け取り300万円の非課税枠を確保するのも一考です。

2022年3月時点で60歳の男性の場合、公的年金の受給開始年齢は65歳ですからこのメリットを利用できます。なお、女性の場合、公的年金の受給開始年齢が65歳になるのは1966年4月2日以降生まれの方となります。

2)企業型DCの運用のみを継続する

老齢給付金を受け取らずに、そのまま運用のみを続ける選択もあります。元本変動型の投資信託を組み入れて運用をしていた方は、今回のウクライナ紛争で資産額がマイナスになっているかもしれません。

そのような場合、2022年4月から、老齢給付金の受給開始時期の選択肢が広がるのは朗報と言えます。それまで60歳から70歳までの間で選択可能だったのが、75歳までに引き上がるからです。相場が戻るまで運用を続けられるメリットがありますが、いっぽうで毎月手数料がかかることには注意が必要です。

この手数料は、加入者資格があった時は勤務先が負担してくれていましたが、資格喪失後は自身での負担となります。金額は運営管理機関によって異なるため、確認しておきたいところです。なお、運用のみを続ける期間は、最終的に一時金で受け取る際の退職所得控除の勤続年数には加えることはできないことにも留意が必要です。

3)個人型確定拠出年金(以後、iDeCo)に資産を移換、加入者として掛金を払う

企業型DCからiDeCoに移換して、加入するという選択も考えられるようになりました。というのも2022年5月からiDeCoの加入可能年齢が60歳から65歳に引き上げられることになったからです。加入するには厚生年金に加入、あるいは国民年金の任意加入をしているという条件がありますが、該当すれば運用を続けることが可能です。

注意点は、iDeCoに資産を移す際には一旦資産を現金化しなければならないこと、移換時や毎月の口座管理に手数料がかかることなどが挙げられます。口座管理手数料や扱う商品内容については運営管理機関によって異なるので確認しておきたいところです。


以上、ざっくりと3つの選択肢についてAさんにお伝えしたところ、iDeCoに資産を移換し、加入する方向で進めることになりました。ただし、60歳でiDeCoに加入できるのは5月からです。2022年3月時点で加入手続きを行うことはできません。そこで、先に移換手続きのみを進めることにしました。移換に3ヵ月ほどかかるようなので、移換完了時には加入手続きを進められそうです。

改正前に60歳になられたAさんですが、5月からiDeCoに加入できることがわかり安堵されたようです。今後は65歳まで厚生年金に加入して働くか、改めて検討されるとのことでした。

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