増える多頭飼育崩壊 「犬猫の殺処分」 大村市に保護施設、譲渡会も 長崎

保護猫が過ごすシェルター。譲渡会もここで実施している=大村市竹松本町、アニマルレスキューハッピーりぼん

 長崎県は全国で最も殺処分される犬猫の数が多い。2014~17年度に続き、20年度も1953匹で全国最多だった。数自体は年々減少しているものの、命を絶たれる子猫が絶えず、繁殖し過ぎて飼いきれなくなる「多頭飼育崩壊」のケースも増えている。保護に奔走するNPO法人は不妊去勢手術や、餌やり・トイレの場所を固定する「地域猫活動」への理解と協力を県民に求める。県も動物愛護管理を強化する条例の制定に乗り出した。
 大村市のJR竹松駅に近い木造2階建ての一軒家。記者がおじゃますると、猫たちが擦り寄ってきた。人に慣れている様子で、床にくつろいでいる。タワー状の遊具を置き、壁の高い位置に板を取り付け、身軽に動き回れる工夫も。においは気にならず、清潔に保たれている。20個ほど並んだケージには病気やけがをした猫を入れ、仲が悪い猫同士を近づけないよう気遣ってもいるという。
 ここはNPO法人「アニマルレスキューハッピーりぼん」(田﨑直美理事長)が運営する猫の保護施設(シェルター)。数が増えすぎたり、飼い主が高齢者施設に入居したりして飼育できなくなり、引き取った45匹が暮らしている。里親希望者とマッチングする「譲渡会」の場にもなり、月に一度は獣医師を招いて不妊去勢手術も行う。

アニマルレスキューハッピーりぼんの田﨑理事長(中央)とメンバー

 現在関わるボランティアメンバーは男女12人。看護師や介護士、会社員など本業はさまざま。毎日交代で訪れ、掃除やトイレ、食事の世話などをする。時には看病も。田﨑氏は「生き物相手で年末年始も休めない。手伝ってくれる仲間を増やしたい」。
 餌やトイレ用の砂、家賃などの経費は譲渡会で募る寄付頼み。改修費はクラウドファンディングで調達している。最初は2020年、約206万円を集めて譲渡会場と手術室を整備した。2度目は昨年12月~今年1月に募集。集まった約305万円を今後活用し、部屋を複数に仕切って新規の猫を隔離、体調管理をしやすくする。そうすれば譲渡会でも猫がリラックスした状態で里親希望者と触れ合える。田﨑氏は「保護数や譲渡数増につなげたい」としている。

◎長崎県、愛護管理条例制定へ/野良猫への餌やり規制

犬猫の殺処分数

 「飼えない」「要らない」「野放しで困る」-。こう見捨てられた犬猫は、県立保健所などを通して、長崎市の動物管理センター、佐世保市の動物愛護センター、離島の県立保健所、県動物管理所(大村市)のいずれかに収容される。けがや病気、凶暴などの事情で譲渡の適性がなければ殺処分に。各施設で収容可能な容量を超えた場合も執行される。
 県は「動物の愛護及び管理に関する法律」に基づき2008年度、県動物愛護管理推進計画を制定。人と動物が共生できる地域社会の実現に向け、県や市町の連携、動物愛護の普及啓発、飼い主やペットショップの責務を明文化した。
 10年度からは県立保健所での引き取りを有料化。▽生後90日を超える場合は1匹2千円▽同90日以内は10匹ごとに2千円-とした。安易に施設へ持ち込む前に飼い主自身で譲渡先を探すよう促す狙いがある。全市町にあった引き取り窓口も8市町に減った。

 民間では「地域猫活動」が普及しつつある。地域で飼育場所を定め、不妊去勢手術を実施。十分な食事を与えた猫は、家庭ごみ集積場所をあさらなくなる。トイレの場所もしつけ、ふん尿被害を抑制。手術で発情しなくなると、泣き声や尿のにおいも軽減する。
 県も15年度から、地域猫の不妊去勢手術に助成。市民が各保健所に申請すれば、県獣医師会所属の動物病院で手術を無料で受けさせられる。

 こうした官民の取り組みもあって、県計画の初年度に1万匹を超えていた県内引き取り数は、20年度に2329匹まで減少。殺処分数も1万966匹から1953匹に減った。ただ20年度殺処分数のうち9割近くを手術前の子猫が占める。飼い主の高齢者施設入所や生活困窮などで多頭飼育崩壊に陥るケースも増えており、20年は本人や親族、近隣住民などから39件の相談があった。
 行政もこの社会問題への関与を強めている。環境省によると21年4月現在、動物愛護管理に関する条例は44都道府県が制定済み。本県も22年度制定、23年度施行に向け準備している。
 本県の条例案の骨子は、周辺の生活環境への支障を防止する措置などを列挙。野良猫への餌やりを規制し、問題発生前に指導する権限を県に与え、多頭飼育の届け出制度を創設する。今後パブリックコメントなどで県民の意見を反映させる。


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