やっぱりやめます

 家計や財布に劇的な変化を起こせる金額とは思えない、と少し前に書いた。でも、世の中には重い重い5千円札もきっとある。ああ、助かるね-。そんな期待もあったはずだ▲額の多寡はともかく、国民に「思わせぶり」をしたり「ぬか喜び」をさせたりすることが、政府や政治家の行動として褒められた話でないのは言うまでもないだろう。年金支給額の減少に伴い浮上していた高齢者向けの「5千円給付案」が白紙に戻されることになった▲そもそも「1回限り、1人当たり5千円」の給付は手法が極めて安易で、生活支援策としての実効性も怪しい。「参院選前の露骨な人気取り」の批判もあった。方針の撤回は当然の成り行きのようにも思えるが▲粗雑な思いつきが生煮えの段階で公表され、批判に抗しきれずに「やっぱりやめます」と引っこんだ事の次第は、柔軟性が示された、と言うよりも「行き当たりばったり」がぴったりくる▲〈ローマ字入力のキーボードで「HUMAN」と打つと「不満」と変換される〉-コラムニストのブレイディみかこさんがこんな“発見”を紹介しているのをどこかで読んだ▲ヒューマン。人々の日々の営みや、政策の向こうで振り回される一喜一憂を、政治はきちんと想像できているだろうか。たかが5千円、されど…。(智)


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