子どもを伸ばす母親のタイプは? 智弁和歌山・高嶋仁氏が考える“親子の距離感”

智弁和歌山・高嶋仁名誉監督【写真:荒川祐史】

母親が「ガミガミ言うタイプ」はNG、後ろから見守るくらいが良い

智弁和歌山を率いた高嶋仁さん(現・智弁和歌山名誉監督)は少数精鋭でチームを作り上げてきた。子どもたちだけでなく、指導者として48年間、多くの親も見てきた。少年野球、そして中学野球をする子にとって、親や指導者はどのように向き合うべきか――。68個の白星を手にした甲子園最多勝利監督にその指導法を伺った。

高嶋氏は野球指導や講演会などを行う中で、子どもたちだけでなく、保護者と会話をすることも多い。

「私のところには野球をする子を持つお母さんたちから『どういう風に子どもを見守った方がいいですか?』という質問も多く受けます。特別、何も言う必要はないですよ、と言いますね、ただ、これだけは『付けてほしい』とは伝えます」

そう言って、手に持っていたのは日記帳だった。そこには細かく、丁寧な文字で高嶋氏の“1日”が記されていた。

「素振りをする子ならば、何時から何時までやったなどを見てもらえるとうれしいですね。そういうことを子どもは敏感に感じる。やらなかった日に、そのメモを“ちらっ”と見せてほしい。『あ、今日はしないんだね……』と伝える。それくらいの距離感で十分です。そうすれば本人が何か気付くはずです」

要するに「癖をつけさせる」ことが大切だ。これは野球を勉強に置き換えることができる。机に向かう習慣、毎週決まった曜日、時間に勉強をするようになればいい。高嶋氏は監督時代、選手たちに「勉強を疎かにするな」と口すっぱく言い続けてきた。

「教え子がやっているスクール(塾)があるのですが、私はそこで顧問をやっています。野球だけのスクールだったら(教えには)行かなかったですけど、勉強の方もするというので、軌道に乗るまで、手伝ってあげようかなと思いまして」

スクールは智弁和歌山の教え子で、法大、日本生命でプレーした佐々木勇喜氏が開講している「佐々木ナマ粋スクール」にて、子どもたちや保護者と定期的に触れ合っている。オンライン講義や実際に野球指導も行っている。

「(スクールに通う子の)お母さんが『月曜日の何時からはこれをやると言った風になってきました』と言っていましたね。私は親からの質問に答えるだけですね」

細かな野球技術の指導よりも、習慣付けの大切さや野球と同じくらい勉強をする時間を持つことの意味などをわかりやすく伝えている。

「勉強をやらない子に、ガミガミ言ったって、余計やらない。恥をかくのは本人。恥をかかないよう、やんわりと指導してあげてほしい。指導者もしっかりと引っ張ってあげていかないといけないですね」

子どもには想像力を働かせる力を養ってほしいと願う。

少数精鋭の智弁和歌山、選手を見るときは親も見る

「雨が降ったらアンダーシャツの替えを持って行こう。昨日、暑かったから水を多く持って行こう……。それも考えなんですよね。野球に通じるんです。だから、子どもにやらせないといけない。失敗したら、繰り返さないんです。親が大体、手伝ってしまう。忘れ物については、大事なものを忘れていったらいいんですよ。チームで『なんで忘れてんだ』と怒られたら、子どもだって、頭に残っている。次からしないようになる。失敗しないと成長はしないんです。かまったらいけない」

母親から口うるさく指示されている子は、忘れ物をすると「お母さんが持っていかせなかったから」と言い訳する。少年野球をしている頃から、自分で自分の責任を取ることを植えつけることも重要だという。

智弁和歌山は少数精鋭。高嶋氏は1学年10人の部員を指導してきた。入部希望する選手は多い中、「私は親がどういう方かも調べますね」と目を向けるのは子どもだけではない。

「(中学の)コーチらに、選手のお母さんのことを聞きます。だいたい男の子はお母さんに似ますからね。ガミガミ言うのではなく、じーっと見守っているお母さんの方が、子どもはのびのびとやっていますね」

野球の成長と子どもの自立は大きく関係していく。高嶋氏が強いチームを作る上での礎には、選手の心も重要だ。そして、未来を作るのが父親の役目だと語る。

「お父さんは子どもの方からよく相談するでしょうからね。今のことよりも2年、3年、いや5年後くらい先のこと、大学のことなどを考えてあげてほしいです。今はレギュラーをとることも大切だけど、野球が終わって、社会人になった時のことを考えてほしい」

それが大好きな野球を長く、子どもに続けさせてあげることにつながるかもしれない。同じことを継続的に続けることが一番、野球では難しい。

「その過程において、高校ならば甲子園がある。でも、甲子園が全てではない。目標は甲子園ですけど、目的はそうじゃない。将来、世の中に出てから堂々と生きていける、責任感を持って生きていける、社会に貢献できる人間に育ってほしいです」

たくさんの教え子を世に送り出してきた名将の言葉には、子どもを導き、引き上げる力が詰まっていた。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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