山と海の「害」 弁当でおいしく “食べる環境保全”に注目 対馬・丸徳水産とdaidai

昨年9月のコラボ弁当。イノシシ肉のしぐれ煮や、スパイシーチキン風に味付けしたイスズミなどが入っている(丸徳水産提供)

 長崎県対馬市の水産加工業「丸徳水産」と有害鳥獣の捕獲・防除などに取り組む一般社団法人「daidai」が、山と海の「害」を資源化したユニークなコラボ弁当を販売している。メインの食材には食害魚の一種「イスズミ」や山林を荒らすイノシシ、シカ肉を使用。「食べる環境保全」として島内で注目を集めている。

 四方を海に囲まれ、陸地のほとんどが山林の対馬では、食害魚が藻場を食い荒らす「磯焼け」や、増えすぎたイノシシやシカによる獣害が深刻化。地場産業や環境、生態系への悪影響が懸念されている。
 市や県対馬振興局によると、2019年の市内のヒジキの水揚げ量は21.2トン。ピーク時(1986年)の10分の1以下にまで減った。20年度のシカやイノシシによる農業被害額は防護対策もあって約265万円だが、12年度は約3600万円にも上った。
 市内で飲食店や総菜店などを展開する丸徳水産は15年ごろから、イスズミの調理法の研究を始めた。独特の臭みを取り除く方法を確立し、19年には東京で開催された「Fish-1(フィッシュワン)グランプリ」にイスズミのメンチカツを出品。本県初のグランプリを受賞した実績がある。
 食害魚を使った弁当や総菜を販売してきたが、調理が難しく、高価なため島内での消費が伸びないイノシシやシカ肉にも着目。海と山で「害」とされるものを資源化しようと、daidaiとコラボ弁当の商品化を企画した。昨年6月から月1回、島内で販売している。
 1個520円。第1弾はイスズミのメンチカツとイノシシのもも肉の野菜巻きなどだったが、メニューは毎月更新。今年3月は、すき焼き風に味付けしたシカ肉などを詰め込んだ。同社の犬束ゆかり専務は「おいしくないと続かない」と話し、試行錯誤を重ねる。家庭でメニューを再現してもらう狙いもあるという。

コラボ弁当を企画した丸徳水産の犬束ゆかり専務=対馬市美津島町

 弁当の米など他の食材にもできる限り対馬産品を使用。犬束専務によれば、こうした「地産地消」により、物流で発生する二酸化炭素(CO2)やコストの削減のほか、フードロス防止などにつながることも期待されている。
 同社は、イスズミと同じ食害魚の「アイゴ」を使ったメニューも考案。弁当の総菜を島外向けに「ギフトセット」として販売することなども計画している。犬束専務は「以前は駆除されたり、捨てられたりしたものが今はお金になる」と手応えを口にし、「おいしい、楽しいと思ってもらえればより消費が広がる。弁当を通して、環境問題について考えてもらいたい」と話す。

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