プロに行くだろうと思って、本当に行ったのは松坂だけ
東京・江戸川南リトルシニアの有安信吾・総監督は、80歳の今もグラウンドで子どもたちを指導する。指導者生活は実に40年。松坂大輔投手(元西武)や小谷野栄一内野手(元オリックス)ら、プロ野球の世界で一流となった選手も育ててきた超ベテラン監督に、プロに進んだ選手にみられる“共通点”を教えてもらった。
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少年野球の段階で実力が突き抜けていて「この子はプロに行けるんじゃないかな」って子は結構いるんです。でも実は、そういう子は体格や運動神経が“早熟”だから上手く見えているだけで、その後周りの子が成長してくると伸び悩んじゃうことの方が多い。
その点、マツ(松坂大輔)は中学生の時には高校レベル。高校で投手としてほとんど完成していて、そのままプロ野球、メジャーリーグって行っちゃうんだから、すごいですよね。「この子はプロに行くだろうな」って思って、本当にプロ野球選手になったのはマツだけです。
マツの同期には小谷野(栄一=元オリックス)がいたんですけど、あの子がプロに行くだなんて思わなかったですね。根がまじめな子でね、慎重なタイプっていうんですかね、初球は手を出さない。バット振らなきゃ当たらないんだから振ってみろっていっても、絶対に手を出さない。とにかくじっくり見ていく、三振の少ない子でした。
決してセンスがある方じゃなかったんだけど、バッティング練習なんか黙々とやっててね。そういう職人的な気質はあったのかもしれない。打順は7番とか下位を打ってましたけど、肩がすごく強くて、サードの守備は抜群。打撃よりも守備の巧さが印象に残ってますね。
「どんくさい子」の方が後々、伸びる
高口(隆行=元巨人)は陽気な性格で、手のかからない子でした。今は身長180cmくらいあるみたいだけど、中学生の時分はあんまり背が高くなくてね「おまえ、背が低いのになんで“タカ”グチなんだ」なんて言うとニコニコ笑ってましたよ。ノックでエラーすると「もう一回お願いします」って、捕れるまでやり続けるようなガッツもありましたね。
大塚(豊=元日本ハム)は2000年に全国選抜大会で優勝した時のメンバーですけど、捕手をやらせてたんですよ。おとなしくて目立たない子でしたけど、前向きに野球に取り組む姿勢があった。だから高校、大学とピッチャーとしての適性を見つけ出して、才能を伸ばすことができたんじゃないですか。
プロになる子の共通点があるとしたら“我慢強さ”でしょうね。うまくできないと不貞腐れて、投げだしちゃうような子もいるんだけど、プロに行った子たちは皆、できるようになるまで黙々と練習してましたからね。やらされてやってるんじゃないんですよ。自分から進んでやる。上手くなりたいという気持ちが強いんでしょうね。
あと不思議なもんで、子どもの時は体格的に劣っていたり、ちょっと「どんくさいな」ってくらいの方が、後々、伸びる子が多いですね。センスがある子っていうのは、なんでも上手にこなしちゃうんで、努力が疎かになりがちなんですね。でも下手な子っていうのはどうすれば上手くなるのか考えるし、負けたくなくてたくさん練習しますから。マツみたいな例外もいますけど、後で「えっ、あの子がプロに入ったの」って驚く子ばかりですよ。
だから中学生の段階での上手い下手は関係ない。我慢強く努力していけば、プロでも甲子園でも道は必ず開けてくる。40年以上、子ども達を見てきた私が言うんだから、間違いありません(笑)。
○有安信吾(ありやす・しんご) 1941年生まれ、東京都葛飾区出身。江戸川リトルシニアでコーチとして少年野球指導を始め、1984年に江戸川南リトルシニアを創設し総監督に就任。全日本選手権大会優勝3回、全国選抜大会優勝4回、リトルリーグ・ワールドシリーズに2回出場し、2010年には世界一となった。教え子に松坂大輔、小谷野栄一など多数のプロ野球選手がいる。(石川哲也 / Tetsuya Ishikawa)
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