不妊治療は保険適用で費用いくらに?2022年医療制度改定で変わること、大学病院の診察料の値上げも

新型コロナウィルスの感染拡大や、深刻な少子高齢化。直近では、ウクライナ侵攻による急激な円安と、不景気の中での物価上昇……私たちの取り巻く環境が目まぐるしく変化をしている中、2022年度、医療制度にも大きな変化が起こります。不妊治療の保険適用や処方箋やマイナンバーカードの健康保険証化など、いま押さえておきたい医療制度の主要な改正内容を解説していきます。


不妊治療が保険適用化 (2022年4月~)

今回の改正で、まず注目しておきたい項目は、「不妊治療」が保険適用された点でしょう。

現在、さまざまな少子化対策が行われているものの、なかなかその成果が見えて来ない中で、この改正は非常に大きな意味を持っています。

日本では、「保険診療」と「自由診療」を合わせた混合診療が認めらていないため、自由診療となる「体外受精」や「顕微授精」などの特定不妊治療を受けると、全額自己負担をしなければなりませんでした。

国や各自治体で、条件に合致すれば助成金制度を活用することもできましたが、それでも各家庭の家計に与える影響は過大でした。

不妊治療 費用の目安(~2022年3月31日)

不妊治療の多くは、一度の治療ですぐに子を授かるケースは稀で、複数回、十数回に渡って、上記の費用を個人が負担しなければならない状況でした。

厚生労働省が公表したデータによれば、不妊治療を行った夫婦のうち、200万円以上を費やした割合が3割弱。加えて治療費の他にも、専門医のいる病院までの交通費や、ご自身の健康状態を維持するための各種取り組みへの費用も掛かります。

それが2022年4月から、以下のように変わります。

不妊治療 費用の目安 (2022年4月1日~)

治療費の自己負担は3割なので、仮に200万を費やした夫婦は、単純計算で200万→60万(実質140万円減額)になります。子供を望む平均的な年収の夫婦にとっては、非常に大きな改正になることは間違いありません。

「リフィル処方箋」とは (2022年4月1日~)

次に、注目度が高い変更は、処方箋の様式が変わります。2022年4月1日から導入されるこの様式は、「リフィル処方箋」と呼ばれます。

リフィル処方箋とは、症状が安定していると医師が判断した患者に対して、医療機関に行かなくても、一定の期間内に、反復利用できる処方箋です。

つまり、長期的に処方箋を必要とする治療を行っていた場合、手持ちの薬が無くなれば、必ず病院で受診をしてから改めて処方箋を受け取る、というのが今までの流れでした。
それが、この「リフィル処方箋」を使えば、病院を経由することなく、薬剤師のいる薬局などで薬を処方して貰えることになります。

受診が要らなくなるということは、例えば病院が離れた位置にある方にとっては、時間や手間が取られなくなったり、交通費の削減にもなるため、利便性の向上に繋がります。

また、処方箋を受け取るためだけの受診にかかる医療費の3割負担も無くなります。もう少し大きな視点で考えるならば、上記の受診にかかっていた残りの7割は、私たちの税金や保険料でまかなわれていましたが、そこに投入しなくても良くなったことになります。

一方で、このような新しい制度においては、トラブルも予想されます。

長期間、患者側が保管することが無かった「処方箋」ですから、紛失をしてしまったり、偽造防止の仕組みが必要になったりするかも知れません。ある程度の運行期間を経て、細かなルール変化が行われることも予想できますが、私たちにとってはありがたい変化といえるでしょう。

大病院へは、紹介状が無いと受診しにくくなる?(2022年10月1日~)

一方で、私たちの家計を圧迫することにも繋がる改正も行われます。その一つが、「紹介状なしの大病院受診時の定額負担」です。

その背景は、国民医療費の上昇推移です。少子高齢化の日本においては、医療費は年間で約40兆円(GDP比 約7%)にも上ります。

参照 財務省「社会保障の給付と負担の現状(2021年度予算ベース)」

国は、医療費の適正化を図るため、限られた医療資源を有効活用するためにも、地域の病院や診療所が連携をしながら、全体で患者の治療に当たる提供体制を整えようとしています。

最初から、いきなり専門的で高度な治療が受けられる「大病院」に来るのではなく、地域の病院や診療所で済ませて欲しい、という国のメッセージです。これは現在も、地域の病院や診療所で書いてもらう「紹介状」がなく、いきなり大病院にいくと、「特別料金」が加算されています。

2022年10月1日から、今までよりも診察料を値上げする改正が行われます。

極めて専門的で、最新鋭の治療が受けられる大病院でも、医師の数や、治療を施せる能力の「限界値」があることは理解できます。よって、それほど深刻な症状でない限り、地域の病院で済ませて欲しいという理屈も理解できなくもありません。

ただし、私たちが本当に医師を必要としているときは何らかの異常事態です。自分自身もそうですが、大切な家族が苦しんでいるときには、誰よりも優先して治療をして欲しい、と願ってしまうのは仕方のないことにも思えます。

改正はもう決まったことなので、いま私たちにできることは、「紹介状」を書いてもらいやすい地域の「かかりつけ病院」を見つけておくことでしょう。

マイナンバーカードが健康保険証代わりになって、変わること

マイナンバーカードに、さまざまな機能が追加されていることは、ニュースなどで目にしているかもしれません。

2022年4月には、「年金手帳」が廃止され、マイナンバーカードに集約されます。また2025年には、「運転免許証」も、マイナンバーカードと一体化する方針も打ち出されています。

そのような中、現在、すでに健康保険証がわりとして使えるようになっているマイナンバーカードですが、マイナンバーカードを保険証として使用した場合、通常の保険証に比べて、窓口での負担が上がることはご存じでしょうか。

これは、実はまだまだ普及が伸び悩んでいるマイナンバーカードにおいて、「保険証がわりに使うための読み取り機」の導入のためにはコストがかかっており、その費用負担を患者が少しずつしなければいけない状態だからです。

一度の負担金額は僅かです。僅かかも知れませんが、釈然としない気持ちになってしまう人は少なくないでしょう。確かに便利になったマイナンバーカードですが、普及率がある一定水準を超えない限りは、このような皺寄せはこれからも出てきそうです。


コロナ禍の出口がまだ見えない今、社会制度の変化には柔軟に対応をしていくことが求められます。少なくとも自身に影響があることには、いつもより敏感になっておきたいところ、「医療制度」はまさに重要な部分のひとつです。

中でも少子高齢化の問題は、医療制度のみならず、年金制度や社会保障全般に関わる問題として、私たちに大きく関わってきます。このような改正の後で社会がどのような変化をしていくのか、注目しておくことが大切です。

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