新型コロナが軟式ボールに影響? 老舗メーカーの職人が計算した“賞味期限”に狂い

軟式ボールの断面【写真提供:ナガセケンコー】

「お客さんからボールが大きいという指摘が数多く寄せられた」

長期化する新型コロナウイルス感染拡大は、少年野球用の軟式球にも影響が及んでいた。軟式球の製造で最も長い歴史を持つメーカー「ナガセケンコー」の職人の計算さえも狂わせている。だが、職人たちは初めて直面した事態に頭を悩ませるのではなく、問題を解決する新しいボールの開発に情熱を燃やしている。

1934年に創業した「ナガセケンコー」は、軟式球の製造で長年にわたって業界をけん引してきた。職人たちは技術に絶対の自信を持っているが、新型コロナウイルスで思わぬ問題に直面している。技術部長の桜庭常昭さんが明かす。

「お客さんからボールが大きいという指摘が数多く寄せられました。新型コロナの影響で調整が難しくなっています」

軟式球は窒素ガスを入れて膨らませている。繰り返しバットで打つと窒素ガスがだんだん抜けていくことを見越して、規格の上限に合わせて大きめに作られているという。通常1年でボールの直径は0.5ミリほど小さくなる。3~4年で1ミリ以上小さくなって規格の下限を割り、ボールの“賞味期限”を迎える。

「ナガセケンコー」の長瀬泰彦会長(左)と技術部長の桜庭常昭さん【写真:間淳】

目指すのは大きさを維持できる軟式球の開発

しかし、新型コロナウイルス感染拡大で少年野球チームの活動が自粛となったり、緊急事態宣言で外出が制限されたりしたため、軟式球を使う機会が大幅に減った。窒素ガスの抜け方が予想できず、少年野球の現場からは「ボールが大きい」と声が上がった時期もあった。

想定外の事態が起きても、ナガセケンコーは決して悲観的になっていない。むしろ、挑戦する機会と前向きに捉えている。桜庭さんは「次に目指すのは窒素ガスで膨らませず、何年経っても大きさが変わらないボールです」と力を込める。

軟式球を打った時に遠くまで飛ぶのは、2つの要因がある。1つは窒素ガス。もう1つが、ボールの中に使っている黒いゴム。窒素ガスで膨らませずに、黒いゴムを今よりも硬くして、大きさを維持できる軟式球を開発しようとしているという。

「黒いゴムを硬くすると、打った時に割れやすいボールになってしまいますが、長年積み上げたナガセケンコーの技術で、きっと完成させます」と桜庭さん。老舗メーカーの職人たちには、ピンチをチャンスに変える技術と自信がある。(間淳 / Jun Aida)

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