「ずっと孤独。今も孤独」 アルコール依存症の男性が巡り合った場所 アンダーグラウンド ルポ 佐世保の今・2

「ずっと孤独」と語る須田。事業所の隅々を掃除していた=佐世保市内

 1月下旬。地下シェルター(長崎県佐世保市)に顔を出したのは、前科10犯の須田郁郎(50)=仮名=。普段はおとなしい性格だが、酒を飲むと暴れ出す。典型的なアルコール依存症だ。
 須田は幼いころから、祖母と2人暮らし。両親から育てられた覚えはない。「親から捨てられた」と須田は言う。高校は中退。とび職として働いていたが、先輩に誘われ暴力団に入り酒を覚えた。20歳からは朝まで酒を飲む生活が続いた。
 25歳の時、酔っぱらったまま、無免許運転し、停車していた車にぶつかる事故を起こし、逮捕された。
 実刑判決を受け、2年の刑期を経て刑務所を出ると、日雇い労働者として働いた。「飲むために働く」。それだけだった。働いても酒に使ってしまい、所持金はほぼゼロ。どこにも行く当てがなく、県をまたぎながら放浪した。力尽きると、無銭飲食してつかまり、また刑務所行きになった。
 親戚からの手紙で祖母が亡くなったと知らされたとき須田は独房にいた。30歳だった。苦労をかけたのに、死に目にも会えなかった。「ああ、もう俺はどっぷり酒につかってる。俺の人生は悪い方に転がっている」。苦しくて、悲しかった。
 出所後。大阪に向かい、初めて生活保護につないでもらったが、それで生活態度が変わるわけではない。その後も飲酒が原因で器物損壊や飲酒運転などの事件を起こし、刑務所に出たり入ったりを繰り返した。
 転機は、元警察官で事業所「Mind Factory」の職員と佐世保で出会ってからだった。職員は須田の身元引受人になり、今年1月の出所時は刑務所まで迎えに行った。
 「ずっと孤独。今も孤独」。須田はうつむきがちにそう答える。嫌なことがあると、ため込んだものを消し去ろうと酒の力に頼るが、飲み続けるうちに、また気持ちが腐ってくる。悪循環に陥っていた。「年齢のことを考えるとアルコールは絶対に断ちたい」。そう話した。
     ◇ ◇ ◇
 2週間後、取材に行くと須田は見違えるように表情が明るかった。掃除を任され、事業所の隅々を磨いていた。今のところ酒には手を出していない。「ここに巡り合って良かった」。須田は笑顔で答えた。
 事業所では前科や前歴のある人も受け入れ、利用者の3、4割を占めている。事業所の代表、福田健誠(かつあき)は「同様の人はこれからも増えるだろう」と険しい表情を浮かべた。
=敬称略、連載3へ続く=


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