ダンブルドアのシリーズハイジャック! 『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』レビュー

はじめに

お疲れ様です。茶一郎です。『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』。魔法ワールド最新作。「ファンタビ」シリーズ3作目です。そのコミカルなタッチ、初見さん大歓迎の1作目とは打って変わって、原作要素をガッツリ絡ませ政治的かつダークな方向にシフトし、観客を困惑させた2作目。その続編となる最新作『ダンブルドアの秘密』。前作で存在感を放っていたダンブルドアがタイトルまで乗り込んで映画をハイジャックしております。もうタイトルを『グリンデルバルドとダンブルドアの秘密』にしてしまえばいいのに。今週の新作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』という事で、シリーズご存じない方にもなるべくお伝えできるように頑張らせていただきます。

あらすじ

闇の魔法使いグリンデルバルドは、魔法界を支配し非魔法使いに全面戦争を仕掛けようとしております。前作までのジョニー・デップのグリンデルバルド=ジョニデルバルドはDV疑惑により降板。本作からグリンデルバルドをマッツ・ミケルセンが演じております。このマッツデルバルドを止めるために、ダンブルドアは魔法動物学者、その兄、その助手、親友の非魔法使いのパン屋さん、呪文学の先生、由緒正しき家系の魔法使いの、寄せ集めチームを結成。グリンデルバルドの悪行を止めるため、ダンブルドアのお使いが始まるお使いチームムービー『ダンブルドアの秘密』でございます。

どんな映画?

『ダンブルドアの秘密』。結論から申し上げると、前作からのほほ笑ましいテコ入れという感じ。前作から続く「ダンブルドア二部作」です。一方でやはりこんなにダンブルドアの物語にしてしまって、「ファンタビ」1作目から魔法ワールドの世界に入られた方、ついて来られているかな…とあたりを見渡す。映画観ながら、ちょっと気を遣いたくなる。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を観た時と同じ感覚が生まれました。

ダンブルドアとグリンデルバルドコンビによる、「ファンタビ」シリーズのハイジャックについてこれるか、こられないかで、好き嫌いが分かれそうだなという所感でございます。私のスタンスを申し上げますと、現在27歳。映画版「ハリー・ポッター」とほぼ同じように歳を取ってきた本当に幸運なリアルタイム世代で、当然リアルタイムで全シリーズを映画館で観ています。シリーズ最終巻「死の秘宝」の発売日、田舎の本屋でしたが、行列ができていて並んで買ったのを覚えています。

このチャンネルとかTwitterで何度か『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の素晴らしさはしつこく言ってきました。アルフォンソ・キュアロン監督の『アズカバンの囚人』は、「ハリー・ポッター」シリーズを越えて青春映画として傑作だと本気で思っております。

シリーズふりかえり

「ファンタビ」シリーズ1作目、2016年の『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は、元の「ハリー・ポッター」シリーズの魔法学校内で使用されている教科書から派生したスピンオフです。ハリポタ内の教科書の著者が主人公の映画という、時系列がハリポタより前の時代になります。映画としての試みはクリス・コロンバスが監督をしていた初期のハリポタのテイストに戻るような、コミカルで楽しいファンタジーだったあの頃のハリポタにシリーズを戻ろうという、そういう試みだと僕は感じて楽しみました。

ハリー・ポッター映画作品は合計8作品ございますが、先ほど名前を上げたシリーズ3作目『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』を転換点として、一気に映画の見た目・ルックがダーク、シリアス、とても大人向けに変化したんですね。原作自体もですが。物語はある闇の魔法使いの軍団との戦争が起こっていくという事で、当然、戦争ですから亡くなるキャラも出てくる。とても映画の見た目だけではなく物語もダーク、シリアスを突き進んでいった訳です。

そのダークさを加速させたハリポタシリーズから一変して、「ファンタビ」シリーズ1作目『魔法使いの旅』は、とってもコミカルで楽しい1作目『賢者の石』の雰囲気を思い出すファンタジーでした。ハリポタシリーズは、普通の魔法使いではない少年が魔法学校に入学する、観客はそこに視点を代入して少年と一緒に魔法の世界に入り込むファンタジーでした。このファンタビシリーズでは、ひょんな事から魔法使いの主人公に巻き込まれた非魔法使いの男性の視点を導入しました。シリーズ初見の方が代入しやすい視点を添え、初期のハリポタシリーズの頃のファンタジーのテイストを取り戻そうとしています。

エディ・レッドメインの可愛いシャイなモゾモゾ演技は言わずもがな、他にも『魔法使いの旅』では序盤でかなり3D映像映えする、魔法生物たちを3Dアトラクション的に滑らかな編集で繋いだ、「魔法生物のびっくり箱」のようなチョー楽しい映像があったりですね。物語自体も20年代の禁酒法時代のアメリカを舞台にしたスクリューボール・コメディ、ラブコメにまとめているという、ファンタジーはお好きではない方、ハリポタをご存じない方にもオススメしやすい1作目『魔法使いの旅』でした。

一変して、二作目『黒い魔法使いの誕生』から、ダークな、シリアスな方向に再度戻ります。しかもハリポタシリーズからアルバス・ダンブルドアという魔法学校の先生が登場して、その因縁の相手グリンデルバルドとのドラマが、映画の背景を占めるようになる。ちょっと映画の『死の秘宝』ではカットされた、原作小説のダンブルドアとグリンデルバルドの設定なんかも入ってきて、思えばこの頃から初見の方ついてこれているかなと、心配していましたね。とっても『黒い魔法使いの誕生』は要素が多くて凄い煩雑な映画なんですが、その他にもある魔法使いの一族のかなりダークな歴史が描かれ、ダークさが増し、特に政治・社会的な要素も強くなりました。

そもそもハリポタシリーズは、魔法使いと非魔法使いという異人種間での差別・分断が背後にあったシリーズで、「ファンタビ」ではそれが前面に現れています。1作目『魔法使いの旅』では主人公ニュートがアメリカ魔法界での法律、魔法使いは非魔法使いと結婚できないという法律を「時代遅れだ」と批判する、明らかにアメリカの人種差別の闇の歴史を想起するシーンを入れたり、極め付けはこの2作目の魔法使い至上主義者の悪役グリンデルバルドの演説シーン。非魔法使いという異人種に対する恐怖とヘイトを煽って、分断を加速させ、権力を得ようとする。このシーンを観て、特にアメリカの批評家の中では、当時の大統領「反トランプを掲げた初めて超大作だ」という言説が出たり、「グリンデルバルドのモチーフはトランプ大統領なんじゃないか」と出演俳優が指摘したりと、そういった事態になりました。

実際に脚本を書いている原作者J・K・ローリング自体がTwitterでトランプとその支持者を強く揶揄するような投稿をしたりしていますので、邪推されるのも仕方なしという、映画のダーク化と合わせて原作者の政治的思想というのも強く映画に反映されているように見える、大きく政治的にダークになった2作目『黒い魔法使いの誕生』でした。これが早い話、評判が少し悪かった。1作目と比べると批評的に少し失敗という感じでした。

「3作目どうするの?」と、そういうお話になりまして、すでにJ・K・ローリングの脚本が完成していたみたいなんですが、『黒い魔法使いの誕生』公開後の2019年から、元々の「ハリー・ポッター」シリーズの脚本をずっとやられていたスティーブ・クローグスが脚本として参加して、「ファンタビ」シリーズでは初のJ・K・ローリング単独ではない共同脚本作となった本作、3作目『ダンブルドアの秘密』です。お待たせしました。ようやく3作目にたどり着きました。

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本作について

先ほど結論「テコ入れ」と表現しましたが、かなり1作目『魔法使いの旅』を思い出す、コミカルで楽しいファンタジーアドベンチャーに戻そうとしています。物語の状況としては力を増すグリンデルバルドが魔法界を牛耳ろうとしていると、かなりシリアスな状況ですが、そのシリアスさは冒頭でとどめまして、序盤からあらすじで申し上げたような楽しいダンブルドアのお使いチームモノになっていました。

未来を予知できる最強になったグリンデルバルドを倒すために、ノープランの行き当たりばったりの、世界を股にかけたミッションをするという。このユルさですね。どこか抜けている、コミカルな、シリアスになりすぎないアドベンチャーに仕上げています。これは前作から続いてですが、ちょっとこの「ファンタビ」シリーズはダンブルドアをMとして、魔法生物をスパイ小道具とする、魔法版「007」みたいな印象もあります。

世界各国を行ったり来たりして、要所要所で見所の魔法アクションがある。本作『ダンブルドアの秘密』では「レイダース』「インディ・ジョーンズ」的なちょっと怖いアクション、モンスターシーンもあって、より活劇感というんですかね、『黒い魔法使いの誕生』に比べて分かりやすいアクション活劇になっていたと思います。

シリーズを観ていた自分としては、ハリポタシリーズ最終章『死の秘宝』の変奏版。ファンタビ版『死の秘宝』という感じでしたね。『死の秘宝』でも、ダンブルドア先生が主人公たちにメッセージと魔法アイテムを託すんですね。で、その魔法アイテムは単体ではまったく意味が分からない、ダンブルドアの意図が分からないけど、アドベンチャーをしていくと、その過程で意味がわかってくるという。まさしく本作でもダンブルドアから寄せ集めチームのメンバー一人一人に魔法アイテム、メッセージが渡されて、ミッションの過程でそのアイテムが意味を持ってくるという、先出し伏線回収アドベンチャーみたいな。作り手が意識していないかもですが、ファンタビ版『死の秘宝』のようなミッションアドベンチャーでした。

本作のタイトルの『ダンブルドアの秘密』『The Secrets of Dumbledore』というのも、『死の秘宝part1』の劇中で登場した日刊予言者新聞という魔法界の新聞の見出し「Dumbledore’s DarkSecrets Revealed」と呼応しているような印象もあります。『死の秘宝』も、ダンブルドア、ダンブルドア一族の秘密が明らかになる作品でしたが、この『ダンブルドアの秘密』というタイトルからしてハッキリと、本作は言うならば『死の秘宝 part.3』ですね。映画はまさしくダンブルドアの視点から始まる。もうダンブルドアが隠れ主役ということを隠さない。ダンブルドアとグリンデルバルドコンビによる「ファンタビ」シリーズのハイジャックでした。

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グリンデルバルドについて

グリンデルバルドにも触れておきましょう。前回のジョニデルバルドから、マッツデルバルドに変わりましたが、すごくマッツデルバルドは今回のストーリーに合っていて良かったです。やはりジョニデルバルドは、ジョニー・デップのいつもの狂人演技と存在感から人間性が感じられない、それが魅力的な悪役を際立てていたと思うんですが、今回のマッツデルバルドは人間味がちゃんと感じられますよね。ジョニデルバルドほどの誇張された漫画的なメイクをしていないというのもありますが、ただの暴走する悪役ではなくてダンブルドアのグリンデルバルドへの感情も理解できるハートがある。クリーデンスの父代わりとしての、人間的な父性も感じられる。でもキレたらハンニバル、やばいという偶然が生んだキャスティングでしたが、今回のグリンデルバルドへのダンブルドアの思い、感情が軸になるストーリーにマッチしていたマッツデルバルドだと思います。マッツのファンの方は絶対にご覧になった方が良いです。

ネタバレなしの結論ということで、「ほほ笑ましいテコ入れ」そして「ダンブルドア二部作」2作目から舵を切って、1作目のような楽しいコミカルな活劇、アドベンチャーと2作目からダンブルドアの物語、そしてダークさ・政治的な要素を取って、ちょうどその真ん中、折衷のような仕上がりになっていたと思います。要所要所は本当に楽しいシークエンスがあって、相変わらず魅力的なキャラクター、魔法生物と再会できた喜びもあるんですが、折衷ゆえにどれも中途半端にまとまってしまった感覚もあります。

「ファンタビ」一作目『魔法使いの旅』のような新規参入しやすい作品と、今回の「ダンブルドア一族」のパートのようなファンサービスに徹した物語をと、これらを一緒に、折衷にせず、独立した二軸で展開していかないと、魔法ワールドシリーズという素晴らしい世界観がこれ以上続かないんじゃないかなと、IPの終わりを垣間見るような切なさもありました。

これは本作に限らず、MCUとか他のシリーズも抱えている問題ですが。シリーズ5部作の3作目、折り返し、橋渡しとして本作で「ダンブルドアの物語」を成仏して、ニュートの、ジェイコブの、ティナの深い物語を次回作に期待したいです。ここからは中盤以降の展開にも少し触れます。興味深い政治的な要素もありましたので、言及して締めます。ここからは絶対に本編ご鑑賞後にご覧下さい。

!!以下は本編ご鑑賞後にお読みください!!

政治的なモチーフ

ホグワーツ魔法学校が映って、ジョン・ウィリアムズの♪ハリーの不思議な世界が流れると、涙腺が緩むという。今回は「必要の部屋」から、予告でもありました最後のバトルでは怪物的な怪物の本とか、双子の呪いとか、クディッチのブラッジャーとか、過去シリーズ、ホグワーツ魔法アイテムが敵を倒していくという展開が、ファンサービスとして良かったです。

そして前作『黒い魔法使いの誕生』に続いて、やはり現実の社会的情勢、政治的な要素を反映したストーリーになっていましたね。まさかのテーマは「選挙」「不正選挙」という。驚きましたね。おそらく脚本にスティーブ・クローグスが参加する前は、ここがもっと強調される映画になっていたと予測します。まさに2020年のアメリカ大統領選をそのまま魔法界に映したような、選挙陰謀映画『ダンブルドアの秘密』でしたね。

国際魔法使い連盟のトップ、ドイツの魔法使いフォーゲルとグリンデルバルドが組んで、不正選挙を画策するという。またこのフォーゲルを演じるのがオリバー・スマッチさん。この方、『帰ってきたヒトラー』でヒトラー役を演じられた俳優さんですよ。ヒトラー役を演じた俳優さんとグリンデルバルドが手を組むという、意味深長なキャスティングだったと思います。

そして「不正選挙」と「陰謀論」と、いまだにトランプ元大統領は「不正選挙だ」と言って再集計と裁判のニュースが耳に入ってくる2020年のアメリカ大統領選ですが、それを想起する魔法生物を使った不正選挙映画という。表面的なモチーフではありますが、興味深く拝見しました。『黒い魔法使いの誕生』の冒頭から魔法生物をぞんざいに扱っていたグリンデルバルドでしたが、魔法生物は大事にしないとダメだぞというお話ですね。

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まとめ

この『ダンブルドアの秘密』は、お使い活劇であり、選挙陰謀映画であり、続『死の秘宝』ということで、『ダンブルドアの秘密』というタイトルが何重の意味と捉えられる構成でした。「アルバス・ダンブルドアの秘密」であり、弟「アバーフォース・ダンブルドアの秘密」であり、「ダンブルドア一族の秘密」という意味での『ダンブルドアの秘密』であると。

「ダンブルドアの物語」の成仏ということで、最後、ジェイコブのパン屋の前の通り、ニューヨークのローワー・イーストサイドの電灯の光を映しながら一人静かに去っていくダンブルドアの姿に、『ハリー・ポッター賢者の石』の冒頭、電灯だけが光るプリベット通りの奥から一人こちらに向かって歩いてくる、ダンブルドアのあの姿を重ねて感動もひとしおでございました。

さいごに

ジョニー・デップ降板を筆頭に、エズラ・ミラーの逮捕、J・K・ローリングの差別発言とそれに対する出演俳優さんからの批判と、映画の外の出来事でシリーズを本当に続けられるか不安が大きいですが、5部作の真ん中で過去シリーズの偉大な遺産「ダンブルドアの物語」をいったんここで成仏させて、ここからはニュートたち、新キャラの物語に折り返して欲しいと、魔法ワールドのこれからの広がりを期待します。今週の新作は『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』でございました。さようなら。

本記事は、圧倒的な情報量と豊富な知識に裏打ちされた考察、流麗な語り口で人気のYouTube映画レビュアーの茶一郎さんによる動画の、公式書き起こしです。読みやすさなどを考慮し、編集部で一部変更・加筆しています。

【作品情報】
「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」
4月8日(金)全国ロードショー
■監督:デイビッド・イェーツ(『ファンタスティック・ビースト』シリーズ、『ハリー・ポッター』シリーズ後半4作品)
■脚本:J.K.ローリング(「ハリー・ポッター」シリーズ著者)、スティーブ・クローブス
■プロデューサー:デイビッド・ヘイマン(『ファンタスティック・ビースト』シリーズ、「ハリー・ポッター」全8作品)
■出演︓エディ・レッドメイン、ジュード・ロウ、エズラ・ミラー、ダン・フォグラー、アリソン・スドル、カラム・ターナー、ジェシカ・ウィリアムズ、キャサリン・ウォーターストン、マッツ・ミケルセン 他
配給:ワーナー・ブラザース映画
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茶一郎
最新映画を中心に映画の感想・解説動画をYouTubeに投稿している映画レビュアー

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