「核使用に現実味」 米の臨界前実験実施 募る危機感、長崎県内被爆者の声

 バイデン米政権が昨年、臨界前核実験を2回実施していたことが明らかになった12日、長崎の被爆者は「いかなる国の核実験も絶対に許してはならない」と怒りの声を上げた。ウクライナに侵攻したロシアは核使用を示唆し、北朝鮮は核実験再開の動きを見せる。「核廃絶の流れに逆行するどころか、核使用の現実味が増している」。被爆地は危機感を募らせる。
 「共通するのは自国ファースト。核兵器は存在する限り使われる。軍拡競争の先は過去の歴史が証明している」。「核実験に抗議する長崎市民の会」代表で被爆者の山川剛さん(85)はこう憤る。1974年から核実験のたびに抗議の座り込みを続け、通算400回を超えた。「政治を、世の中を変えるには世論を盛り上げていくしかない」と今回の核実験を受け、抗議の座り込みをする考えだ。
 オバマ政権が掲げた「核兵器なき世界」の理想を引き継ぐバイデン政権だが、同盟国との関係や国内の政治情勢も絡み、現実はトランプ前政権の計画を踏襲。内実は発足1年目から核実験を繰り返していた。県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長(82)は「バイデンさんを信じたい」とし、5月下旬で調整されているとされる初来日で「長崎を訪れ『長崎を最後の被爆地に』と強い決意を世界に示してほしい」と訴えた。
 長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA=レクナ)の吉田文彦センター長は、米国にとって「使いやすい核兵器」を開発・維持するため臨界前核実験は欠かせないとの見方を示す。「NPT(核拡散防止条約)の核軍縮の精神に反している」とし、米国など核保有国に「核軍縮構想をもっと明確に示す責任がある」と強調する。
 6月にはウィーンで核兵器禁止条約第1回締約国会議の開催が予定される。吉田氏は「核兵器を減らすか、反対に核抑止力を高めるか、世界は岐路にある。締約国側からも米国などの保有国に、核軍縮や核リスクの低減をどう進めるか、説明責任を果たすよう求めるべき」と語った。


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