絶対に誰も見捨てない 利用者との信頼関係を 支援者の苦悩 アンダーグラウンド ルポ 佐世保の今・4

利用者たちの笑い声が響く草刈りの現場。職員たちは利用者とのコミュニケーションの難しさを感じることもある=長崎県佐世保市内

 事業所では、午前10時ごろから草刈りやチラシのポスティング、ニンジンの皮むきなどの作業が始まる。
 草刈りの現場では、利用者たちの笑い声が響く。手際が良く、隅々まで行うので依頼者から好評だ。「彼らもいろいろあったんですよね」。生き生きと働く姿を見て、職員の荒岡重善(52)はそうつぶやいた。
 荒岡は事業所の設立当初からの職員だ。高齢者福祉施設で働いていたが、転職を考えている時に事業所に出合った。「身の回りにこんなに困窮している人がいるとは思いもしなかった」
 利用者は10~70代の男女約80人で、このうち生活保護費受給者は9割。保護費をお小遣いだと思っている人もいる。そうした利用者とどうコミュニケーションをとればいいのか、頭を抱えている。
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 過去に深い傷を負った職員もいる。昨夏、同法人で実習して以来、アルバイトとして働く大学生の小関沙英(21)。中学、高校でいじめを受けた経験がある。
 いじめがエスカレートし、「死にたい」と思ったことも。今でもいじめられた記憶を突然思い出すが、事業所に携わることで、人と関われるようになったという。
 勤務5年目の丸田彩花(28)はトラウマ(心的外傷)を抱えながら利用者に真摯(しんし)に向き合っている。
 丸田は幼い頃から父親から虐待を受けていた。学校ではいじめに遭い、学校も家も「地獄」だった。耐えられず高校1年の時に家出。友人の母親に連れられ警察署に助けを求めたが「早く家に帰りなよ」とあしらわれた。「大人は本気で助けようとしてくれない」。叫びは誰の耳にも届かなかった。
 高校を中退し、彼氏の実家に身を寄せた。だが、精神疾患がある母親が彼氏に刃物を突きつけ、彼氏が家を出て路上生活を送ったこともあった。2人で家を借りて、19歳と20歳の時に出産。21歳で結婚したが、育児や家事の大半を1人で背負う「ワンオペ」状態になり、翌年離婚した。
 知人からの紹介で事業所の職員に採用された。仕事は代表らの背中を見て覚え、利用者全員の特性を記憶した。今では利用者の家庭環境などの聞き取りや金銭管理を担当している。
 心が育っていない人や大人への不信感が強い人が利用者の中に多く、親からの愛情不足、社会からの孤立を感じる。だからこそ、難しくても心を開かせ、信頼関係を築かなければと思う。
 今でも虐待を受けた光景がフラッシュバックする。だが、自分と同じような境遇に置かれている人たちを助けたい-。その思いを原動力に産業カウンセラーの資格の勉強を始めた。「事業所が私の価値をつくってくれたと思っている。私は絶対に誰も見捨てない」
=敬称略、連載5へ続く=


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