今のインフレの正体は?給料が上がらないのに物価が上がる、日本のいびつな状況はなぜ起こるのか

世界的に物価が上昇しています。経済の教科書によれば、物価が上昇すると金利が上昇します。その時、私たちの資産運用の環境はどう変わるのでしょうか。今の物価上昇が「良いインフレ」か、それとも「悪いインフレ」なのかを整理してみましょう。


良いインフレと悪いインフレ

インフレには「コストプッシュ・インフレ」と「ディマンドプル・インフレ」という、2つの種類があると言われています。

コストプッシュ・インフレはエネルギーを含む原材料価格や賃金の上昇によって引き起こされるインフレで、ディマンドプル・インフレは需要が大きく伸びることで引き起こされるインフレのことです。これは経済の教科書に書かれていることです。

一方、「良いインフレ」と「悪いインフレ」に分けるケースもあります。これは「見出し」で読者の気を惹きたいと考える場合に、よく用いる言葉といっても良いかも知れません。

さて、今話題になっているインフレは、どういう性質を持ったものなのでしょうか。

まずコストプッシュ・インフレとディマンドプル・インフレのどちらかと問われれば、コストプッシュ・インフレなのでしょう。

先月発表された2022年2月分の消費者物価指数は、総合の前年同月比が0.9%の上昇となりました。「たったのそれだけ?」という声もありそうですが、過去の推移を見ると確実に消費者物価指数は上昇傾向をたどってきています。

物価上昇の中身を見ると

なぜ物価が上昇しているのか、中身を見てみましょう。

総合指数の中身を細分化した「10大費目指数」で見ると、食料のうち生鮮食品の前年同月比が10.1%上昇していますが、基本的に生鮮食品は天候に左右される部分が大きいため、あまり考える必要はないでしょう。実際、経済活動に焦点を当てて消費者物価指数を見る時は、「生鮮食品を除く総合指数(=コア指数)」で見るのが一般的です。

経済活動と密接に関係しているところで注目したいのは「光熱・水道」です。何と前年同月比で15.3%の上昇となっています。品目で言うと、電気代が19.7%、灯油が33.5%、そして「交通・通信」のうちガソリンが22.2%、それぞれ前年同月比で上昇しています。

ちなみに「交通・通信」は前年同月比▲7.4%と大幅なマイナスとなりましたが、これは携帯電話の通信料が▲53.6%と大幅に下落したためです。これについては他でもよく言われているように、菅前政権下における携帯電話料金の値下げによる影響が大きかったためです。恐らく4月以降はこの特殊要因が剥落するため、その分、消費者物価指数は上昇に転じ、日銀が目標値としている2%に乗ることもあるかも知れません。

エネルギー価格の高騰と円安

消費者物価指数の2%乗せで、いよいよ日本はデフレ経済から脱却します。しかし、それは決して手放しで喜べるようなことにはならないでしょう。

日銀がイメージしていたのは、経済活動が活発になり、企業が従業員への賃金を引き上げることを通じて、世の中に楽観ムードが広がり、個人消費が押し上げられ、結果的に消費者物価指数が2%上昇する、ということです。

でも今、世界的に進行しているインフレは、世界経済が大好況に沸いているからではなく、ロシアによるウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁措置と、ロシアの対抗措置にともなうエネルギー価格の高騰に端を発しています。原油価格の指標的存在であるWTIは、2020年4月末に1バレル=19ドルまで下落した後、2022年3月にかけて124ドルまで上昇しました。

加えて日本においては円安の影響も無視できません。今年1月24日には1ドル=114円だったのが、4月15日には126円台まで円安が進みました。これが何をもたらすのかというと、日本国内に輸入されるモノの値段の上昇です。企業物価指数によると、2022年2月の輸入物価指数(円ベース)は、前年同月比34.3%の上昇となり、さらに企業物価指数は1月の9.2%上昇に続き、2月は9.7%の上昇になりました。

結論は「悪いインフレ」

企業物価指数は、企業間で取引されているモノの価格推移を見るためのものです。つまり、企業物価指数が9.7%も上昇する一方、消費者物価指数は0.9%の上昇に止まるといういびつな状況が、今の日本国内の物価です。

それだけ企業がコスト削減に努め、企業間で取引されているモノの価格上昇分を、小売価格に転嫁しないようにしているのです。「自分たちが買う分には値段が上がらないからラッキー」などと思ってはいけません。企業は小売価格への転嫁を出来るだけ抑えるためにコスト削減努力を行いますから、結果的に従業員の賃金に跳ね返ってきます。つまり給料が上がらないのです。

このまま資源価格の上昇と円安が続けば、コスト削減だけでは追いつけなくなった企業から、徐々に小売価格の引き上げを始めるでしょう。結果、給料が上がらないのに物価が上がるという、消費者にとっては非常に厳しい状況に追い込まれる恐れがあります。

つまり、今の物価上昇が良いインフレ、悪いインフレのどちらなのかというと、「悪いインフレ」ということになります。そのなかでどのような資産運用をすればよいのかを、次回考えてみます。

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