経済アナリスト馬渕磨理子の「初めての投資」、家庭教育と現実社会で感じたギャップとは?

経済アナリストの馬渕磨理子です。

今は、報道・経済番組への出演や、金融に関する講演をさせていただくようになりましたが、私にも「初めての投資」があります。「投資を始めようか」と迷っている方と、私も一度は同じ思いをしています。

今回は、投資のことを「リスクがありそう」「怪しい」「ギャンブルではないのか」と思っていた私が、なぜ始めようと思ったのか、お話します。


両親から聞いていた話と違う……出発点は「違和感」

私の両親は、とにかく「身の丈を超えずに生きることが大切だ」と話していました。買い物は全て「現金」で、車のような大きい買い物でも「ローンなどは絶対にしない」という考えです。私の幼い頃はクレジットカードも良くないという考え方で、「投資」なんてもってのほかです。新聞は必ず毎日読み、経済誌には全て目を通していた両親ですので、経済について決して疎かったわけではありません。ただ、投資に関しては消極的でした。

そんな私が、こうして金融業界にいることは不思議ですが。恐らく、染みついた教育よりも、私の好奇心の方が勝ったのだと思います。色んな情報に触れる中で、家庭教育と現実社会で起きていることのギャップを感じたことがありました。

私が、投資をはじめた1つの理由が、大企業や年金資金は投資で稼いでいる、ということを知ったことです。

大企業や公的機関が「投資」で稼いでいる事実

例えば、日本のモノづくり企業が素晴らしいと聞いて育ちましたが、信頼性の高い大企業も証券投資を行っています。自分たちの製品を作って儲ける、という本業での稼ぎが全てだと思っていましたが、大企業も金融で利益を得ています。そして、私たち日本人の年金資金は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)という、厚生労働大臣から寄託された組織が年金積立金の一部を運用し、その収益を国庫に納付することにより、年金財政の安定に貢献しています。GPIFの運用資産額は約200兆円もあり、見方を変えれば「世界最大規模の機関投資家」ともいえます。

GPIFの投資先のポートフォリオで「外国株に25%」投資していることを知った時に、「私は時代の流れから置いていかれている」と焦りを感じたことを覚えています。それまで「投資はギャンブル」というイメージが拭えなかったのですが、言葉の語弊を恐れずに表現するならば「まともな人・まともな組織が行っているものなのだ」と知った時に、「あれ?これまでの投資のイメージと違う」と思いました。

投資だけに限らず、どんなことであっても、幼い頃に教えてもらったことや、その時のイメージを拭い去ることは誰でも難しいでしょう。ただ、私は違和感を覚えると調べないと気が済まないですし、その感覚に蓋をしたまま生きることができなかったので、さまざまなことを調べました。もちろん両親は、私の人生を大切に考えていてくれて、「金融や投資には手を出さずに生きて行って欲しい」という愛情からの教育だったと理解しています。ただ、自分の頭で考えた時に、「自分の資産は分散して持った方がいい」「お金に稼いでもらうスキルも持ちたい」と思うようになり、「私に投資は必要」だと判断しました。

減点主義で生きるのをやめた

恐らく、多くの日本人は「桶の理論」の発想になじみがあります。木の長さが違う桶の水がこぼれてしまうのと同じように、バランス良く人生を送るためにも、木の長さにムラがない方がいい、という考え方です。

※イメージ画像(pixta)

例えば、複数の木の板をつなぎ合わせて作られた「桶」を人間のスキルとして考えた場合、1つでも短い木の板があれば、そこから水がこぼれてしまいます。ビジネスパーソンとして、お金を稼ぐスキルの中には、「コミュニケーション能力」「情報処理能力」「専門性」「書く・話す」「プレゼンテーション能力」「経験値」など、さまざまな要素があります。それをベースにビジネスパーソンは収入を得ることができます。

その中に「投資」という要素を入れると、「投資の板」は長くなったり、短くなったりするイメージがあるのだと思います。すると、せっかく色々な努力をして稼いだお金が、「投資」によって流出して、損をするのではないかと感じてしまいます。これは「減点主義」の思考回路です。この教えは犯罪を犯したり、道徳から外れないための教えとして正しいです。しかし、投資をこの減点主義の中で考えてしまうと「リスクの高いものには手を出さない」と考えてしまいがちです。

社会人になり色々な経験をする中で感じたことは、人生やモノゴトは「減点主義」ではなく「雪だるま式」に層になって積みあがっていくのだということです。世の中は金融なしには回ることはできませんので、金融の知識は「ビジネスの理解力」に繋がります。少し先の未来を期待しているのが金融ですので、金融を把握すると「トレンドの先取り」もできます。そのことが、「リサーチ力」に繋がり、人と会話する時の「コミュニケーション」の話題としても役立ちます。投資は資産形成も大きな目的の1つですが、それ以外に派生して自分のビジネススキルにプラスの影響が大きいのではないかと考えるようになりました。

筆者作成(pixta)


私の場合は、金融の知識が自分のビジネススキルを全体的にアップさせてくれるのではないか、そして老後に安心した資産形成が出来ているのではないか、と考えたことが最終的に投資をはじめた理由です。ちなみに、「投資なんてもってのほか」と考えていた両親も、今では退職し資産運用をしています。

投資は将来の資産形成のために必要だという話は、「何となく分かっているけれど、スタートできない」という人もいるでしょう。私の経験が、一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。

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