【激論:規制改革と薬局vol.1】「国の規制緩和は正しかったのか」/「対物から対人を無条件に受け入れることなく対物こそいま、膨らませるべきだ」プライマリーファーマシー(神奈川)代表 山村真一氏

【2022.04.21配信】座談会参加者■プライマリーファーマシー 代表 山村真一氏<独立系薬局経営者の立場から>■I&H; 取締役 インキュベーション事業本部 岩崎英毅氏<大手調剤チェーン企業の立場から>■中部薬品 代表取締役専務 医療本部長 佐口弥氏<ドラッグストア企業の立場から>■帝京平成大学薬学部 教授 亀井美和子氏<アカデミアの立場から>■カケハシ 代表取締役社長 中尾豊氏<システム企業の立場から>【全5回】

ーー規制緩和やICT活用の波など、薬局・薬剤師を取り巻く環境が大きく変化しようとしています。ドラビズon-lineでは、こうした変化にどう臨むべきなのかを考えるために、さまざまな立場の関係者を招き、座談会を実施させていただきました。規制緩和は、裏を返せば薬局・薬剤師の本質業務を問う議論でもあると思っています。

山村 では、これからの調剤、薬局の動向を見据えて今話題の調剤の外部委託から国の規制緩和について考えてみたいと思います。調剤の外部委託は、国の規制緩和施策の流れの中で「対物業務を効率化し対人業務を充実させる」という観点で議論されています。

今、薬剤師は「対物から対人へ」という考え方を正しい流れとして疑う事なく受け入れているような格好になっていますが、本当にそれは正しいのか、国に言われるがままに従っていけば良いのかということについて、一度立ち止まって自分たちが存在している意義から考え直さないと、このままだと大切なことを失ってしまいかねないという重要な場面に直面しているのではないかと思うのです。
振り返れば、私は1980年に薬局を始めましたが、当時、国は院外処方箋の発行を政策として推進していて、平成末には75%ほどまでに院外処方箋の発行率が増えました。ただ、その時にあまりに調剤にインセンティブをつけた政策をとったばかりに、結果的に日本の薬局は調剤報酬に依存した薬局だらけになってしまいました。

しかし、今回の新型コロナで分かったように、本来薬局は、イタリアがそうであったように、社会のライフラインとして機能するべき存在だったはずです。残念ながら我が国の多くの薬局は調剤に偏重してしまっていたのでライフラインとして十分機能することができませんでした。

一方で、ドラッグストアはライフラインとしての役割を一定程度担ってきたので、今回も社会インフラとしての機能を担う事ができていたと感じました。つまり、新型コロナによって、調剤に偏った日本特有ともいえる調剤薬局はこのままで良いのかという問題が浮き彫りになったのです。

ほんの10数年前、「薬剤師=調剤」という風潮が出来上がっていた中、薬学部を卒業した学生たちが調剤薬局に集中してしまった結果、ドラッグストアで薬剤師不足が起こり、一般用医薬品の販売が行える人材が必要になったという事情から2009年に登録販売者制度が生まれました。

調剤偏重により、薬剤師たちが物販に目を向けなくなって、登録販売者という新しい医薬品販売資格の誕生を許してしまったことは、自ら業務独占の一端を崩してしまうという大きな失敗だったと思うのです。加えて今、対物から対人へということで、極端に言えば薬局というハコモノにこだわらずに薬剤師がどこにいても服薬指導・服薬フォローが可能になるという点に目を奪われていると、挙げ句の果てに特に薬局はなくても良いのではないかという議論になりかねません。

果たして、国というのはわれわれを正しい方向に導いてくれているのでしょうか。あるいは、当事者であるわれわれは、今まで自らなりたいと思う未来を主体的に構築してきたのでしょうか――ということを本当に問わないと、今のままでは危機的な状況になってしまうのではないかと思うのです。

対物業務の見直しについては、そもそも薬剤師法第一条に、「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」とあるわけですから、調剤同様、医薬品の供給も死守すべきミッションだと再認識して簡単には手放すことなく、新型コロナで時代が急変するというイノベーティブな時代の中にいる今だからこそ、逆にその価値を膨らませて国民にアピールしていかなくてはならない状況にあると思います。

――外部委託そのものについてはいかがでしょうか。端的に言えば反対すべきというご意見ですか。

山村 今は反対すべきだと思います。ただ補足しますと、外部委託をアウトソースと言いかえると分りやすいですが、薬局業務の色々な業務をアウトソースしていく際、それがアウトソースが適切なのかインハウスが良いのかを考えなければいけません。どちらであっても薬局の強みを強化していく手段でなくてはならないからです。

ですから薬局業務を強化していくアウトソースであれば積極的に取り入れるべきですが、調剤の外部委託がそれに当たるかどうかはよく吟味しなければいけないと思っています。

先日、“オンライン薬剤師”の存在を知りました。青森県八戸市での例なのですが、在宅医療で医師が患者宅に行く際に横浜のオンライン薬剤師に医師側の医療クラーク業務をアウトソースしているというのです。在宅現場の薬剤師も医師との間にオンライン薬剤師が入ることで問い合わせがスムーズになったという事ですが、今後、薬局としても患者とのオンラインでのやりとりの際、受け持つ担当をオンライン薬剤師にアウトソースすることは十分あり得ますし、それを薬局機能の強化につなげていけば良いと思うのです。

ただ現状、ディスカッションされている調剤の外部委託については未だ機が熟していないので、今は反対すべきだと思っています。
<vol.2に続く>

プライマリーファーマシー(神奈川県川崎市) 代表 山村真一氏
■やまむら・しんいち
1979年昭和大学薬学部卒業。1980年プライマリーファーマシー開局。2005年バンビーノ薬局を開局。2011年中小の薬局経営者を中心とした一般社団法人保険薬局経営者連合会を設立、現在も会長を務めている。2013年薬事政策に関する調査研究や薬事データの収集と解析、薬局経営などに関するコンサルティング業務を行うシンクタンク組織、株式会社薬事政策研究所を設立

© 株式会社ドラビズon-line