自営業の50代男性「保有している投資信託が元本割れ、手仕舞いにするべき?」FPが気になったポイント2つ

コロナショックで収入が減り、ウクライナ情勢で投資の含み損を抱え、将来に不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。今回は自営業57歳男性からのご相談を元に老後資金対策について考えてみたいと思います。


コロナで収入が激減、ウクライナショックで投資も元本割れ

日頃からファイナンシャル・プランナーとして活動している筆者ですが、主に50代の方からのご相談を多くいただきます。今回お伝えするのは、57歳の自営業Aさんからのご相談事例です。元々アパレル業界で会社員をしていたAさんですが、45歳の時に衣料品のセレクトショップを開業し事業を営んでいました。

ところが、2020年3月のコロナショックにより売り上げは激減、Aさん自身の役員報酬も大幅に減額することになってしまったのです。オンラインショップの運営に軸を移そうと試行錯誤しているものの、実店舗の売り上げには及ばず、役員報酬の減額が続いています。

事業の先行きに不安を抱えながら、さらに悩ましいのは老後資金のことです。数年前に証券会社の営業担当者から勧められて投資信託を一括で購入したのですが、ウクライナショックにより含み損を抱える状況になっているからです。老後のために資産を増やしたいと思って始めた投資でしたが、これからどうしたら良いのか分からなくなってしまったと、筆者の元に相談にこられた次第です。

保有している投資信託を手仕舞いした方がいいのか?

今回、Aさんが最優先でクリアにしたいことは、元本割れとなってしまった投資信託をどう手仕舞いしたら良いのか、これからどうすれば適切に資産運用を行えるのか、の2点でした。

保有している投資信託を拝見したところ、4本すべてが「テーマ型ファンド」と呼ばれる、ロボットやAI(人工知能)、バイオ医薬品など特定の業種やテーマに沿った投資信託でした。最近ではESG関連ファンドが人気を集めていますので、耳にしたこともあるのではないでしょうか。

2年ほど前に一括購入し、2021年12月頃には含み益が出ていたものの、2022年2月のウクライナショック以降は含み損のものや、取得金額とほぼトントンのものが混在している状況です。相場が持ち直せば、このまま保有を続けても良いのかもしれませんが、実は気になった点が2つありました。

手仕舞いがベターであると考える2つのポイント

1つ目は保有している信託報酬が4本とも2%を超えていることです。信託報酬とは、投資信託の運用や管理にかかる費用で、保有している間はずっと払い続けることになります。信託報酬は0.1%ほどから2.5%ほどまでと投資信託によってさまざまですが、Aさんの保有しているものは2%超えですから高いことがわかります。ただし、信託報酬が高くてもそれに見合うリターン(収益)があれば問題ありませんが、逆の場合は問題ありと言えます。

2つ目は保有している全ての投資信託の償還日が2022年から2024年と2年以内であるところです。償還日とは運用期間の終了日のことを指し、一般的にテーマ型の投資信託には償還日が設定されていることが多いのです。運用会社の判断次第では運用期間が延長される場合もありますが、確実ではありません。償還日までに収益が出なければ損失が確定してしまうことになります。

以上の2点から、投資信託の資産額全体で含み益があるところで売却するのも選択肢の一つではないかとお伝えしました。

いつ投資信託を売るべきなのか

注意したいのは、投資信託を売るタイミングについてです。投資信託は、価格が変動する有価証券などに投資をしているので日々価額は変動します。そして、売却発注時点では、取引が成立する値段(約定価格)が分からないブラインド方式となっています。通常、国内に投資するファンドであれば、15時に申込が締め切られて当日の証券取引所が終了した後に算出される基準価額で約定します。いっぽうで、海外に投資するファンドの場合、翌営業日の基準価額で約定しますが、海外休場日などもありますので約定タイミングが後ろにずれる可能性もあります。

このように、残念ながら投資信託は株式投資と異なり売却する値段を自分で決めることはできません。しかし、この状況の中でもAさんができることはあります。まずは、保有している投資信託の投資先が国内であるか海外であるかを確認して、約定日を調べることです。その上で相場環境と投資信託の値動きをウォッチしながら注文締め切り時間ギリギリで発注を入れるなどで対応するのがベターな手仕舞いではないかとお伝えしました。

Aさんは保有している投資信託の内容や状況を理解され、損失が出ない程度で売却できればよいとして、全ての投資信託を売却する方向で進めることを決心されたのです。

投資信託の長期積み立てで適切な資産運用を

また、今後はなるべく長期で投資信託の積立投資を行なうのが適切であることをお伝えしました。つみたてNISAや確定拠出年金といった制度を利用して、税制優遇を受けつつ老後資金を作っていくのです。Aさんは法人格をお持ちなので、企業型確定拠出年金を導入して70歳まで掛金を出し続けることも可能ですし、つみたてNISAであれば運用状況によっては途中で資産を引き出すこともできます。

Aさんとは今後の働き方や公的年金の受け取り見込み額、手元にある金融資産などを確認して、どの制度を利用するのがベターなのか、また改めて検討することになりました。

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