ひきこもり学術書 体験交え、県立大講師・伊藤さん出版

「『ひきこもり当事者』の社会学」を出版した伊藤さん=佐世保市、県立大佐世保校

 ひきこもりや不登校などに関する現代的な生きづらさを研究している県立大地域創造学部の講師、伊藤康貴さん(37)が、自らのひきこもり体験や当事者活動をまとめた学術書「『ひきこもり当事者』の社会学」(晃洋書房)を出版した。伊藤さんは「当事者や関係者だけでなく、行政など支援する側の方にもぜひ読んでほしい」と話している。
 伊藤さんは福井県出身。幼いころに父親と死別したが、父は「子どもを大学まで上げるように」と遺言した。大学に行くことが“宿命”だと感じた伊藤さんは進学校の高校に入学。だが、大学受験を重視した学校生活や教員になじめず不登校になり、中退した。
 それでも大学に行かなければと大学入学資格検定を目指していた時に、インターネットで高校中退者は「社会不適合者だ」「欠陥品だ」といった書き込みを見て、人と会うのが怖くなった。「ニート」に対して風当たりが強い時代でもあり、「もう生きているのが嫌だ」、そう思う時期もあった。ネットを見続けて昼夜逆転の生活を送り、「ひきこもり」状態になった。
 そうした生活を2年ほど続けていたが、高校は卒業したいという思いが芽生え、大阪府の昼間定時制高に進学。大阪商業大に合格し、関西学院大に編入した。ひきこもりのことは周囲に隠していたが、何らかの生きづらさを感じていた。そんな時、当事者研究が注目され始めた。「心の整理につながるのでは」。卒業論文で思い切って自らのひきこもり経験を含めた自分史を執筆した。
 大学院に進み、関西を中心に自助グループや当事者活動を調査研究し、「ひきこもり」や「生きづらさ」について考察。ひとくちに「ひきこもり」といっても多様な経験や姿があることを知った。2018年に県立大に着任し、研究を続けている。
 学術書は、加筆修正した卒業論文や、当事者や関係者の経験を踏まえ「ひきこもり」現象を社会学的にどのように理解するか問う内容となっている。
 伊藤さんは「ひきこもりは、当事者だけの問題ではなく、人と人の間で起きているという想像力を持ってほしい。当事者の立場になって考え、生き方を尊重することが大切だ」と語った。
 A5判、320ページ、3080円。大型書店やアマゾンなどで販売している。

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