【追う!マイ・カナガワ】横浜・資材置き場の騒音振動(下)「迷惑」か否か審査なく

住民とトラブルのあった横浜市都筑区の資材置き場。現在は更地になっている=3月下旬(住民提供)

 「町内に資材置き場ができ、建設残土を運ぶダンプカーが突然、行き来するようになった。騒音・振動で住民が迷惑している」。横浜市都筑区の男性から「追う! マイ・カナガワ」取材班に相談が寄せられた。送られてきた動画を見ると、確かに夜間まで作業音が響き、住民が困っている様子が伝わってくる。解決策を探ろうと取材を進めた。

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 問題になっている横浜市都筑区の資材置き場は市街化調整区域にある。同区域は住宅などを新たに建築することは原則認められていないが、同市宅地審査課によると、資材置き場を造ることは問題ないという。

◆農地法の審査基準では…

 元は農地で、農地を資材置き場に用途変更するには「農地法」が適用されるといい、管轄する同市農政推進課に事情を聞いた。

 「資材置き場を設置するには、周辺の農地への影響を審査することが定められていますが、周辺住民にとって迷惑施設になるかの審査基準はありません」

 騒音・振動などのトラブルは農地法の規制対象ではないため、事前相談の段階で騒音などの配慮を要請することはあっても「それを理由に不許可とはできない」という。つまり現状では、近所の空き地や農地に突然、資材置き場ができ、騒音トラブルに頭を悩ます住民が出ることも防ぎようがない─ということだ。

◆県内自治体が先駆けに
 何か解決策は無いのかと取材を進めると、資材置き場を巡るトラブルに関し、横須賀市が2005年、全国に先駆けて条例を施行していたことが分かった。

 同市によると、「騒音・振動の苦情よりも、資材置き場内に人が立ち入らないようにする防犯対策の目的があった」という。条例は市街化調整区域内に設置された資材置き場を対象に、中が見える塀やフェンスを設置するよう求めるなどトラブルの防止を図ってきた。施行から17年。担当者は「一定の効果は出ている」と話す。

 また、埼玉県川口市も資材置き場の設置を規制する条例を今年7月から施行する。横須賀市を参考にしたというが、市街化調整区域だけでなく市内全域に規制をかけたという。

 川口市内には77カ所も資材置き場が集中する地区があり、野焼きなどへの苦情が目立っているという。農家の後継者不足や、東京に近い利便性、地価も比較的安価なため農地転用が安易に進んだといい、市の担当者は「何もせず放置してしまうと、各地でトラブルが増える危機感があった」と話す。条例では騒音や粉じん防止などにも目を光らせ、高さ1.8㍍以上の板塀などを敷地内に設置するよう定めている。

 ほかにも茨城県坂東、古河市が、資材置き場の乱立を防ぐための指導要綱を昨秋以降に相次いで制定し、新たな資材置き場を造るには、住民説明を事業者に義務付けるなどしている。

◆条例検討したことない

 横浜市でもこうした条例や要綱があれば、トラブルを防ぐことにつながるのではないか─。市宅地審査課に聞いてみたが、「そこまで資材置き場のトラブルの相談件数が多くないので、条例の制定を検討したことがない」と、他市の動きも知らなかったという。

 業界の事情を同市内の建設会社社長に聞くと、「都市開発に資材置き場は必要なもの。業者は法や条例に違反して資材置き場を運営はしていないし、住民は困っていると思うが個々の話し合いで解決するしかないのでは」と打ち明けた。

 だが、当事者同士の話し合いや同市の取り組みでは解決しなかったから、住民は悩みをマイカナ取材班に相談してきたのだ…。

 問題の資材置き場に運搬される土は、建設工事で発生した建設残土だ。残土問題に詳しい桜美林大の藤倉まなみ教授によると、残土は「資源」と扱われるため法的規制が無く、建設業者に処分が任されてきた。

 残土を巡っては、昨年7月に発生した静岡県熱海市の土石流災害を受け、土の管理を巡る「盛り土規制法案」を国会で審議中だ。ただ国土交通省に聞くと、「審議中の法案はあくまでも災害防止目的。騒音や粉じんなどの生活環境までカバーしていない」という。

 藤倉教授は「土ぼこりが舞ったり雨で濁水が出るなどの適切な保管を行っていない場合も含め、建設残土の責任の所在を法律で明確にするべきだ。残土置き場でトラブルがあれば住民が直接、建設会社に対処を訴えることができるようになり、解決策につながる」と話す。

◆姿消す業者、思い鬱積

 根本的な解決法を見いだせないまま、取材を続けて半年以上がたった3月。最初の投稿を寄せた男性から、取材班に連絡が入った。資材置き場が突然更地になり、住民を悩ませてきた業者が地域から姿を消した─というのだ。

 今回の問題はあっけなく幕を閉じたものの、資材置き場の存在に長い間悩まされてきた男性は「騒音被害はなくなった」とほっとしつつも「われわれの事例は氷山の一角」と、煮え切らない思いを吐露した。住民らは「次の被害者が生まれないように法整備をするべきだ」と唱えるなど、3年にも及ぶ我慢の日々で鬱積(うっせき)した苦い思いは消えない。

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