自力で生活できなかった… コロナ禍で加速する孤立や困窮 長崎市社協相談員「寄り添い 幅広い支援を」

ヒロシさん(右)の近況を聞く田中さん。「寄り添いながら幅広く対応する必要がある」と訴える=長崎市内

 仕事も家もなく、家族にも頼れない。新型コロナ禍が浮かび上がらせる人々の孤立や困窮。長崎市社会福祉協議会に寄せられる相談件数はコロナ前と後で倍以上に増えた。相談員は「寄り添いながら、幅広く対応する支援が必要」と訴える。憲法が保障する「生存権」をどう守るのか-。3日は憲法記念日。

 「きょう会社から(契約期間)更新の話がありました」。4月中旬、長崎市内のアパートの一室。ワイシャツ姿のヒロシさん=仮名、30代=が晴れやかな表情を浮かべた。市社協の相談員、田中信さん(41)も「それは良かったです」と顔をほころばせた。
 県内の「バスも2時間に1本あればいいぐらいの田舎」で育ったヒロシさん。県外の大学に進学したが学校生活になじめず中退。親の仕送りやアルバイトで1人暮らしを続けたが、20代後半で仕送りも途絶え、やむなく実家に戻った。
 車の免許がなく、仕事に行くにも家族の手助けが必要。働かずに実家で過ごしているうち折り合いが悪くなり、2020年秋、片道分のバス代だけを持って家を飛び出した。
 仕事を探して長崎市に来たものの、行く当てもなく2日ほど歩き回った。途方に暮れ、駆け込んだのが市社協だった。対応に当たった田中さんらは不動産業者を通じ、住まいを確保。民間団体の協力も得て、家電や生活用品、食料などをその日のうちに用意した。
 市社協がスピーディーに動けたのは、独自の生活困窮者対策として19年6月から市内の複数の不動産業者と連携し、敷金や礼金、保証人不要で住居を紹介しているからだ。今年2月までに賃貸契約したのは19人。需要は少なくない。
 ヒロシさんはその後、田中さんらの支援で生活保護を受給しながら、職業訓練に通い簿記の資格を取得。今年に入り、市内の事務系企業で契約社員として働き始めた。
 「寝る場所も食べるものもなかった。自力では今の生活はできなかった」。ヒロシさんは市社協の存在に心から感謝する。正社員を目標に、前を向いて歩き出している。
 コロナ禍が加速させる孤立や困窮。市社協によると、生活困窮者自立支援事業の相談者数はコロナ禍前の19年度は854人だったが、20年度は2227人と2.6倍に増えた。
 市社協は、住宅支援や食料の提供に加え、弁護士とアドバイザー契約を結び、消費トラブルなどの法的助言を受ける仕組みも独自に整備。困窮者を救うための「網」を広く張る。こうした取り組みは、厚生労働省が今年3月に公表した「社会福祉法人の生活困窮者等に対する『地域における公益的な取組』好事例集」にも取り上げられた。
 もともと孤立・孤独を抱えていた就労能力が高い単身者が、コロナ禍で行き詰まるパターンが多いという。田中さんは「命を守ることが最優先。きめ細かに幅広く対応し、再スタートの準備をしっかりと支えていくことが必要」と言葉に力を込めた。


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