応援団がいる長崎で 「一人では生きて行けません」 第2部 更生とは何か・7

「雲仙・虹」に入所して間もなく、職員と交わす日記に「人は、一人では生きて行けません」とつづった=雲仙市瑞穂町

 「外の正月は20年ぶりだな」。昨年の年の瀬。施設の職員や入所者と卓球台を囲んで餅を丸める西川哲弥=仮名、当時(46)=の顔はほころんでいた。
 西川は昨年8月、仮釈放で満期より1カ月早く長崎刑務所を出所。刑務所で取った介護の資格を生かした仕事に就きたいと願い、次の住まいや仕事が見つかるまで、雲仙市瑞穂町にある更生保護施設「雲仙・虹」で暮らしていた。
 「虹」は、社会福祉法人が運営する全国初の更生保護施設。刑務所や少年院を出ても行き場のない人などを一時的に保護している。入居期間は半年を基本とし長くても1年。施設にいる間に福祉の手だてを整えたり、就労や生活の支援をしたりして社会復帰を手助けする。
 西川は刑務所を出た頃、顔も知らない亡き父の出身地、大阪で生活してみたいと思っていた。ただ「虹」で過ごすうち、生活基盤を一から築くより、支援センターや虹の職員など「応援団」が近くにいる長崎で地道に進む方が自分のためになると思うようになった。
 刑務所を出ては戻るを繰り返し友人がいなくなった西川は、「虹」に来てから地域の人と関わり、受け入れてもらう経験をした。単発のアルバイトで近くの農園に行ったとき、「即戦力で助かってる」「また頼むよ」と言われ、少しでも地域に貢献できたことがうれしかった。これからも期待に応えようと思った。なにより、過去の過ちや障害に関係なく、1人の人間として分け隔てなく接してくれることがありがたかった。
 福祉や法律を学ぶ大学生に、オンラインで自身の経験を話す機会もあった。「年が離れていても趣味が違ってもいいから、心通じ合える友達が1人でもほしい」と唯一の願いを伝えた。皆、興味深そうに聞いてくれた。「今後も継続的に話を聞きたい」などとメッセージをもらい、励みになった。
 「虹」の職員とやりとりする日記には、こうつづられている。「悩みやストレスを自分一人で抱え込み、誰にも相談出来ずに、毎回同じ事を繰り返し、同誤ちを犯し続けています。私は今回は誰にも頼らず一人で生きて行こうと思っていましたが、本音は強がりでした。人は、一人では生きて行けません」(原文のまま)
 人生を変える最後のチャンスと考えていた。仕事に通う生活に慣れるため、西川は今年2月から「虹」の関連施設のそうめん工場で一時的に働き始めた。(敬称略、連載8へ続く)


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