生きづらさ幾重にも 失った一つ一つ 獲得し直す 第2部 更生とは何か・8

西川の自室の前にそろえられたサンダル。彼と関わる中で、伊豆丸は「更生とは何か」に気付かされた

 「ある男性と出会い、更生とは何かを教えてもらいました」
 昨年11月。厚生労働省の矯正施設退所者地域支援対策官の伊豆丸剛史は、罪を犯した障害者の支援がテーマのオンライン研修で講師を務めた。参加者は福祉や医療、司法の分野から大学や自治体の関係者までいた。
 「13年間で約830人の罪を犯した人たちに寄り添って分かったことは、『生きづらさ』は常に私たちの想像の外側にあるということです」
 長崎県地域生活定着支援センターで所長をしていた伊豆丸は、罪を繰り返す障害者や高齢者の立ち直りに寄り添う現場で、生きづらさを幾重にもまとい生きてきた人を多く見てきた。
 「刑務所に服役し、まるで花びらが一枚一枚はがれ落ちていくように、家族関係、仲間、住まい、安定した職、そして信頼や自信までも剥ぎ取られてしまう、そんな受刑者も少なくありません。罪の償いと同時に、社会で生きる上で大切なものを失い社会復帰していく現実を、多くの人が想像できないのではないでしょうか」
 伊豆丸は7年前に出会った西川哲弥=仮名=を例に話を進めた。
 「親からの愛情や教育の機会、相談できる存在など、私たちが生まれながらに当たり前に獲得してきたものを、当たり前に失って生きてきた人がいかに多いかいつも驚かされてきました。罪を犯した人に向き合うとき、どれだけ反省しているかも大切な目安かもしれませんが、男性に出会って思うことは、生きづらさを抱えた人たちが何を失って生きてきたかに目を向けなければ、どんな支援をしたとしても社会生活を長く維持できないということです。だとすれば、失ったものを一つ一つ獲得し直していくプロセスこそが更生であり、失ったものを一つ一つあてがっていくというまなざしや支えが求められているのではないでしょうか」
 それは伊豆丸が、西川と関わる中で気付かされたことだった。
 「絡み合った生きづらさを解きほぐすには長い時間がかかり、伴走が必要です。ただ、属人的では持続可能ではありません。13年前に比べると、例えば当省で推し進めている重層的支援体制整備事業などといった官民共同で支える仕組みが少しずつ充実してきました。2016年には再犯防止推進法ができ、自治体が罪を犯した人の再犯防止推進計画を作らなければいけない時代になりました。これからは、地域社会でいかに官民共同の資源を生かしながら、生きづらさを抱えた人たちに息長く寄り添うかが課題です」(敬称略、連載9に続く)

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