開放的な島? 佐渡島(新潟県佐渡市)で県外からの移住・創業が多い理由

閉鎖的と言われる地方にあって、新潟県の佐渡島では、外国人が移住しパン店やワイン作りを行ったり、地域おこし協力隊として着任し任期が満了しても、佐渡でそのまま事業を行ったりするケースが多い。また企業においても、釣り人向けアプリを開発するSIIG株式会社(新潟県柏崎市)、株式会社PRUM(東京都)、株式会社SAKAMA(東京都)などベンチャー企業の進出も相次ぐ。

佐渡には島外の人が移り住み活躍できるのはなぜか。その理由について、佐渡特有の3つの側面から考察した。

1つ目は、異文化に慣れているという歴史的な側面。順徳天皇、日蓮聖人、世阿弥などが流罪となり佐渡島に渡って様々な文化をもたらした歴史がある。さらに佐渡金銀山においては、江戸時代から平成元年まで長期間採掘事業が行われ、鉱山関係者のみならず商人や役人など、多くの人が訪れた。

さまざまな地域から人が集まり生活してきた背景には、佐渡の気候的な特徴がもたらす豊富な食料資源が確保できた事にも起因するのではないだろうか。佐渡島の近くには対馬暖流が流れ込み、暖かい海水を運んでくるため比較的穏やかな気候をもたらす。それにより温暖な地域で育つミカンなどの作物が育てられている。一方で新潟らしい厳しい冬の環境もあり、米作りなど寒冷地でも強い作物も育てられる。加えて豊富な海産物が獲れる場所であることは言うまでもない。

これら佐渡特有の気候がもたらす自然の恵みが、様々な土地から移住した人の生活環境に馴染み、豊富で多彩な食が手に入ったことが、多くの人が訪れて定住した歴史を作ったのではないだろうか。

跳坂からの風景(佐渡市フォトギャラリーより)

2つ目は、事業者への手厚い補助金度を活用できる点。佐渡市は、有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法に基づく、「佐渡市雇用機会拡充事業補助金」が設けられている。これは、佐渡市内で創業や事業拡大を行う場合、事業費最大1,600万円のうち補助率4分の3(1,200万円)の補助を受けることができるというもの。ベンチャー企業の進出や創業において、この補助制度は他地域では得られない大きな魅力といえる。

このほか佐渡市では、ビジネスコンテストを開催したり、空き家などを活用したインキュベーションセンターの整備を進め事業者のオフィスに活用させたりと、企業誘致に積極的な取り組みを行っていて、創業や事業拡大のリスクを最小限に抑えたいベンチャー企業の後押しとなっている。佐渡に進出した東京都のベンチャー企業の代表は、「佐渡市が本気で誘致しようという気持ちを感じ、はじめの地方進出の場所として佐渡を選んだ」と話す。

3つ目は、地域の有力者とつながることで地域コミュニティに入りやすくなるという特性だ。佐渡は異文化に慣れている歴史があるとはいえ、地域の人同士が密接につながり生活する村社会。実際問題、島外からの移住者が人間関係すぐに作り、地域コミュニティに馴染むことは簡単ではない場合があると考えられる。

一方で、村社会であるからこそ、有力者とつながり、しっかりコミュニケーションを取ることができれば、短期間で地域に馴染める特性があるという。ある佐渡に居住した経験を持つ人は、「佐渡には、各地域に必ず有力者がいる。その有力者を押さえてコミュニケーションをとることが大事。有力者が移住者を認めれば、地域住民にも信頼が広がり、すぐに地域に馴染めることが多い」と話す。村社会こそ、地域の人間関係はシンプルなものかもしれない。

佐渡市は2023年のユネスコ世界文化遺産登録に向け、今後さらに注目を集める。佐渡特有の自然環境、行政の積極的な誘致活動、そして離島ならではの村社会がプラスに働くことで、多様性あふれる島へと進化していくことを期待したい。

(文・中林憲司)

大佐渡スカイラインから望む道遊の割戸(佐渡市フォトギャラリーより)

春日崎の夕景(佐渡市フォトギャラリーより)

© にいがた経済新聞