曲がりくねったいきさつ

 劇作家の寺山修司は〈墓は汽車の連結器の中につくってもらいたい〉と書き残した。こんな“熱愛”はまれだとしても、世に鉄道好きが絶えることはあるまい▲マニアには遠い身ながら、本紙やテレビニュースで見た美しい流線形の“顔”には、胸の高鳴りを覚えている。西九州新幹線の車両「かもめ」の走行試験が県内や佐賀県で始まった▲長崎、諫早、新大村と、往来する県内の駅での歓迎ぶりを11日の本紙は伝えている。紙面を飾る笑顔に心温まりつつ、おそらくは笑顔を浮かべようのない人のことも頭をよぎる。佐世保市民、県北の人たちはどう思うのだろう、と▲曲がりくねったいきさつをご存じの人は、もう多くないかもしれない。そもそも新幹線は佐世保を経由する計画だった。31年前、時の佐賀県知事が建設費を削ることなどを理由に「佐世保カット案」を言い出し、長崎県もそれに乗り、佐世保は歯がみした▲十数年前に聞いた佐世保市議の言葉が耳の奥に残っている。「新幹線がこないと長崎県は取り残されると言うが、いざ開通したら、今度は県北が取り残される」▲佐世保-博多を結ぶ特急はどうなるか、未来は見通せない。笑顔とまではいかなくても、佐世保、県北の人々が納得し、うなずく顔へといざなうのも、避けられない宿題に違いない。(徹)


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