罪作りなミス

 考えた。もし誤った入金先がこの人物でなく、他の462世帯のうちのどこかだったら…。人によっては役場の職員にイヤミの一つぐらいは言うかもしれないが、返金の手続きには応じて“一件落着”となっていた可能性は高い▲山口県の自治体で起きたコロナ特別給付金の誤入金問題で、入金先の24歳の男が電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕された。「金はネットカジノで使った」と供述しているという▲入金の当日、事情の説明を受け、いったんは返還手続きのため、町の職員と一緒に銀行に赴いたが、思い直したように「きょうは手続きをしない」と言い出したそうだ。何を思いついたか▲よりによって、こんな人物のところに-と巡り合わせの不思議を思いながら、入金の前にミスは止められなかったのだろうか、とつい考えてしまう。誤入金がなければ犯罪もなかった。文字通り罪作りなミスだった▲町役場のミスは金融機関からの指摘で発覚した。不自然だ、と誰かが気づいたのだ。入金処理の前にひと言それを言葉にできていたら、犯罪者は生まれずに済んだ▲男に同情の余地はないし、ルールに沿った事務処理を責めるのは筋違いなのだろう。それでも思う。気づきや違和感や機転を残らず否定してしまったら、人が仕事をする意味はあるだろうか。(智)

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