「絵とは」問い続けた60年 長崎の洋画家・米村昭彦さん(92)が個展 24日から県美術館

「どうすれば自分を自然に表現できるのかと今も考えている」と話す米村さん=長崎市内の自宅

 長崎市の洋画家、米村昭彦さん(92)の60年以上の画業をたどる個展「米村昭彦 ネクスタート展」が24日から同市出島町の県美術館で始まる。長崎の美術界の重鎮ながら現在も精力的に制作に取り組み、約20年ぶりに大規模な個展が実現する。米村さんは「絵を描いてきた時間は僕の痕跡。来てくれる人それぞれの見方で楽しんでもらえれば十分」と話す。29日まで。
 長崎市出身の米村さんは、幼少期から10代半ばまでを旧満州で過ごした。東京の大学を卒業して故郷で教職に就き、美術教育に尽力。30代後半に県内の公募展で受賞を重ね、より自身の制作活動に力を入れた。市美術振興会の発足や後進育成にも情熱を注いだ。
 個展のきっかけは昨年。高齢となり作品の処分について考え始めた時、もう一度ギャラリーに絵を並べたいという思いが湧いた。「自分の作品がなぜ生まれたのかを確かめたい」と弟子や美術関係者の後押しもあり開催の準備を進めた。
 個展では油彩や水彩、コラージュなどの作品約200点を展示。60年以上の画業を通じて常に「絵とは何か」と問い続けてきた。自身が感動した美しさを残そうと風景や人物など具象的な主題に取り組んだ20代と30代、戦争などで揺れる世界情勢から感じ取るものを描いた中年期を経て、色と形に着目することで説明的な絵からの脱却を決意した。近年は瞬発的な筆の動きや絵の具のしたたりを生かした作品にも取り組む。「どうすれば自分を自然に表現できるのかと考えている。でもまだ最終地点には至らない」
 90代になり体は顕著に衰えた。だが今も一晩中絵を描く生活を続け、けがで入院中も院内の風景をスケッチブックに収めるなど創作意欲は尽きない。「精神世界は年齢に関係ない」と開催ぎりぎりまで制作に没頭する。
 長い年月をかけて生み出した多種多様な作品を集めた個展だからこそ、絵や芸術について話すきっかけになると信じる。「美は感覚的なものだから学ぶのが難しいが、それ故に答えがいくつもあって奥深い。自分も突き詰めたいし、多くの人が絵のことを語り合える土壌が社会で育つとうれしい」と前を見据えた。


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