「拡大抑止」の合言葉

 言うまでもないが、国民を、国を戦争から守る唯一の方法は、戦争を起こさないこと。〈そのためには〉と経済学者の森嶋通夫(みちお)さんは著書で述べている。〈戦争が起こってから活躍する人ではなく、開戦前に活躍する人を充実するより他(ほか)ない〉▲〈開戦前に…〉の代表格は、外交に尽くす人たちに違いない。日米首脳会談で、岸田文雄首相とバイデン大統領は同盟関係を強めることで一致した。がっちり肩を組み、中国ににらみを利かせる狙いがある▲拡大抑止を強める、と高らかに宣言した。米国だけでなく同盟国が攻撃されたときにも報復するぞ、という意思を示して、敵国の攻撃の手を止める。そんな「拡大抑止」の4文字が“日米タッグ”の合言葉に用いられている▲米中は対立を極め、日本は対立の最前線に位置している。危機意識は欠かせないとしても、拡大抑止の手だてには通常兵器もあれば、核兵器もある。勇ましい合言葉には疑問符もぶら下がる▲首相は「核兵器のない世界に取り組む」とも述べた。核兵器を含む拡大抑止を強めると言い、「核なき世界」を目指すとも言うのだが、さて、すとんと胸に落ちる人はどれほどいるだろう▲言動に説得力を持たせる。知恵を絞って危機を遠ざける。外交に〈活躍する人〉の手並みが今ほど問われる時はない。(徹)

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