校長室に“戒め”の机 佐世保・小6同級生殺害18年「二度と事件起こさない」

御手洗さんが使用していた机といすを見つめる蒲川校長(右)と納戸教諭。「二度と悲しい事件を起こさない」という戒めになっている=佐世保市東大久保町、市立大久保小校長室

 長崎県佐世保市の市立大久保小で起こった小6女児同級生殺害事件から1日で18年。同校の校長室には、今も被害者の御手洗怜美(さとみ)さん=当時(12)=が使っていた机といすが置かれている。事件を風化させないため、歴代の校長が引き継いできた。「二度と悲しい事件を起こさない」という、学校の安全を担う管理職の“戒め”にもなっている。
 発案したのは、事件翌年の2005年に校長として赴任した秋山団一さん(68)。赴任前の3月、引き継ぎで同校を訪れた時、机といすをどうするのか、教員の中で意見が割れ、6年生の教室前の廊下に置かれたままだと知った。6年生の机に紛れ込ませるか、処分するか-。学校内で事件が発生し、周囲の冷たい視線にさらされながらも、歯を食いしばって子どもたちに向き合っている教員らの心情を思うと、机をどうするか深くは聞けなかった。
 「この問題は自分が預かる」。そう思い、4月の始業式前の職員会議で教員らに「校長室に置かせてくれんやろうか」と提案すると、異論は出なかった。
 秋山さんは「これからも校長たちは、残し続けるべきか、区切りを付けるべきか悩み続けるだろう」とおもんぱかる。それでも、「この机にこもる思いは計り知れない。残している“意味”を理解してほしい」。そう思う。
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 昨年引き継いだ蒲川法子校長(60)は、必ず目が届く入口付近に置いた。休み時間には校長室に児童がやってくるが、机のことを尋ねられたことはない。毎日机を見て「今日もみんなが安全に下校できるように」と心の中で語りかけている。
 過去には、事件現場となった部屋を改修した「いこいの広場」に設置する話も持ち上がったが、当時の職員で「一番良い場所」として校長室に残されることになった。本年度で定年を迎える蒲川校長。次の校長にも引き継いでいくつもりだ。「校長室で保管ができる限り続けてほしい」
 同校に勤める教員で最年少の納戸まどか教諭(35)は、事件当時、市内の県立高の2年生。身近な場所で事件が起こったと知り、鳥肌がたち「とにかく怖かった」と振り返る。
 24歳で教員になり、2年前、大久保小に赴任した。頭に浮かんだのは、事件や毎年開いている集会の様子だった。「常に命の大切さなどを意識して教育しなければ」。正直、不安もあった。同校では、赴任してきた教員には机といすを保存していることを伝えている。納戸教諭も机といすのことを知り、「事件を風化させず、子どもたちにとって安心して過ごせる場づくり」を意識したという。
 これから先、自分よりさらに若い事件当時を知らない世代の教員が増えていく。「事件が起こらないよう、担任一人だけではなく組織として解決できる体制を整えることが、若い先生への支援の一つになるのでは」。そう静かに語った。


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