原爆とホロコースト 8月9日、独の大学生と「集い」企画 長崎純心大生ら ユダヤ系修道女の存在きっかけに

関係者とのオンライン会議でモニターに向かって語りかける(左から)荒木教授や江口さんら=長崎市三ツ山町、長崎純心大

 「長崎とアウシュビッツをつなぎ、人類史に残る二つの惨禍の犠牲者を追悼し、平和を祈る日に」-。長崎純心大の学生団体が長崎原爆の日の8月9日、ドイツの大学生とオンラインの「集い」を開き、原爆とホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)という悲惨な戦争体験を共有し、世界平和を祈るプロジェクトを企画。ドイツ語による被爆体験手記の情報発信や企画展開催などの準備を進めている。
 同大でドイツ語演習の講義を担当する荒木慎一郎教授(教育学)によると、第2次大戦中にナチス・ドイツによるホロコーストの犠牲となったユダヤ系ドイツ人の修道女で、哲学者エディット・シュタインの存在がきっかけとなった。

アウシュビッツ強制収容所で亡くなり、カトリックの聖人に列せられたエディット・シュタイン(エディット・シュタイン資料館提供)

 シュタインは1942年8月9日、アウシュビッツ強制収容所のガス室で50年の生涯を閉じた。98年にカトリックの聖人に列せられ、翌99年にはヨーロッパの守護聖人に。現在のポーランド南部にある同収容所跡で8月9日は「祈りの日」となっている。
 このことを知った荒木教授は没後80年の今年、学内で企画展を計画。長崎市内で活動後に同収容所で別の囚人の身代わりとなって殉教したカトリックの聖人、コルベ神父の足跡を伝える記念館が同市内にあり、「長崎とは二つの共通点がある」と考えたからだ。
 昨年12月、ドイツのエディット・シュタイン協会などに、メールで写真提供の協力や学生の交流を相談。ベアーテ・ベックマンツェラー会長が賛同し、8月9日に「集い」を開くプロジェクトが動き始めた。

 日本側は、同大でドイツ語演習を受講する学生有志約10人でつくる「グナーデンベルク」(ドイツ語で「恵の丘」の意)が活動。ドイツ側は毎年8月9日に、収容所跡近くの「対話と祈りのセンター」を訪ね、祈りをささげるフライブルク大の学生を中心に進めることになった。
 5月末には関係者がオンライン会議で「集い」の内容について協議。日本側からは、爆心地近くで被爆した子どもたちの手記をまとめた「原子雲の下に生きて」の日本語とドイツ語での朗読や、平和のメッセージ発信を提案した。
 代表の江口凜さん(20)=長崎純心大3年=らは事前の取り組みとして、手記をドイツ語で朗読したものを動画投稿サイトで配信することも計画。7月27日から学内で企画展を開くことも決め、長崎の学生や市民にホロコーストの実相を知ってもらいたいと考えている。ロシアのウクライナ侵攻で、より「対話」や「平和」の重要性が増していると感じている。当日は情勢次第だが同協会に所属するウクライナ人の参加も予定している。
 江口さんは「どちらの悲劇も、もう二度と繰り返してはいけないという祈りは共通。平和な世界に進む第一歩になれば」と語った。


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